
暗号資産(仮想通貨)の課税をめぐっては、長らく分離課税への要望が続いてきましたが、2025年12月19日に公表された 令和8年度与党税制改正大綱では、より踏み込んだ方向性として暗号資産を分離課税化することが明記されました。
大綱は、金融商品取引法(以下、金商法)による投資家保護や不公正取引の防止といった業規制の高度化を前提として、分離課税の対象となる取引について記載されています。法律の用語も多いため、個人投資家にとっては「議論の背景/何が読み取れて/何が記載されていないのか」を切り分けて理解することが重要です。
本稿では、与党大綱の該当する記述を軸に、注目の論点を解説します。
現在の暗号資産(仮想通貨)税制
日本の個人課税では、暗号資産取引で生じた利益は原則として「雑所得(その他雑所得)」として扱われ、給与など他の所得と合算したうえで総合課税が適用されます。税率は所得水準に応じて段階的に上がる仕組みのため、所得税と住民税を合わせると上限はおよそ55%に達します。こうした制度設計が、暗号資産は税負担が重いという印象につながり、投資の心理的ハードルになることもあります。
加えて、現行ルールでは暗号資産取引で出た損失を翌年以降へ繰り越して、将来の利益と相殺する制度(損失の繰越控除)は認められていません。この点も、リスク管理や取引設計の自由度を狭める要因になっています。
金融商品取引法とは?移行の背景と税制との関係
日本国内の暗号資産口座数は2025年10月時点で1,300万口座を超え、2022年から2倍以上に増加しています。
このような資産クラスとしての発展を受けて、金融庁の金融審議会などの行政・有識者の検討において、暗号資産を取り扱う制度について
- 投資判断に必要な情報提供の水準
- 取引の公正性を確保するための規律
- 事業者に対する登録・監督の枠組み
といった点を、既存の金融商品と整合的に整理する必要性について議論されています。
この流れの中で、暗号資産に関する法律を現在の資金決済法から金商法に位置付け直し、整理する方向性が示されてきました。
令和8年度与党税制改正大綱では、暗号資産の分離課税化等について、「投資家保護のための説明義務をはじめとする健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応」を前提とする形で記載されています。
これは、税制上の取り扱いを変更するにあたり、取引環境や事業者規律が一定水準で整備されていることを前提条件として位置付けていることを意味します。
株式や投資信託など、既に申告分離課税の対象となっている金融商品は、いずれも金商法の枠組みの下で、情報開示、不公正取引規制、業者監督といった制度が整備されています。暗号資産についても、同様の制度的前提を整えたうえで税制を整理する、という考え方が採られています。
令和8年与党税制改正大綱の記載内容と注目点
まずは税制改正大綱に記載された基本的な考え方を見ていきます。
「令和8年度税制改正大綱」ではまず「資産形成の促進に向けた取り組みの拡充と金融を通じた経済成長」の枠組みの中で、下記の記述がなされています。
| 暗号資産の分離課税化等 暗号資産取引に係る課税については、令和7年度税制改正大綱で示された、投資家保護のための説明義務をはじめとする健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提に、国民の資産形成に資する暗号資産に限って、その現物取引、デリバティブ取引及びETFから生ずる所得を分離課税の対象とする。国民が安心して暗号資産市場に参加できる環境の構築を図る観点から、3年間の繰越控除制度を創設する。 こうした暗号資産の資産形成に資する金融商品としての位置付けは、デジタルエコノミーの進展にもつながるものである。 |
令和8年度与党税制改正大綱 p13
ここで、前項の金商法などの投資家保護等の法整備等への対応を前提として、分離課税の対象とすることが書かれていることが重要です。利用普及の拡大に伴う環境整備と一体となって税制が整備されます。
併せて、翌年以後3年以内の繰越控除制度の創設が明記されました。
また、米国で2024年1月にビットコイン現物ETFが承認されて以降、国内でも現物取引と公正な制度の下での取り扱い開始が期待されていました。今回、金融庁から公表された「税制改正大綱における金融庁関係の主要項目」においても、暗号資産現物ETFを「政令改正により組成可能とする」旨が記載されました。大綱にはETFに関する税制の手当ても盛り込まれています。
金融庁金融審議会の報告書においては「暗号資産投資についてお墨付きを与えるものではない」と前置きがされているものの、一定の暗号資産については国民の資産形成に資するものとしてデジタルエコノミーの進展にもつながることが期待されています。
以上を踏まえ、ここからは令和8年度税制改正として記載された具体的な内容を見ていきます。
分離課税の対象となる暗号資産、取引について
| 暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る。以下「特定暗号資産」という。)の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税する。 |
令和8年度与党税制改正大綱 p52
「特定暗号資産」という単語で国内の暗号資産交換業者に上場している暗号資産を対象としていることが読み取れます。しかし、前掲の文章に「国民の資産形成に資する暗号資産に限って」という表現があることから、国内の上場銘柄100種類以上の全てが分離課税の対象とならない可能性があります。
また、「譲渡『等』」や「譲渡所得『等』」と記載されている点について、売却による譲渡所得とは異なるステーキングやレンディングなどの報酬として暗号資産を受け取る取引が含まれるのかは明記されていません。
| ⑥ 総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産について、次の措置を講ずる。 イ 当該暗号資産の譲渡益について、譲渡所得の特別控除額を控除しないこととする。 ロ 当該暗号資産については、5年を超えて保有した資産に係る譲渡所得の金額の計算上2分の1とする措置を適用しないこととする。 ハ 当該暗号資産に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額については、他の総合課税の対象となる所得との損益通算を適用しないこととする。 |
令和8年度与党税制改正大綱 p53
また、金融庁の説明資料では、「一定の暗号資産を原資産としたデリバティブ」は”雑所得”の申告分離課税20%と記載されています。上記ハのとおり、譲渡所得と総合課税(即ち、その他の雑所得)の損益通算が適用されていないことが明記されました。現物の売買が譲渡所得、デリバティブが雑所得に分かれることで、現在の株式取引とFX(先物取引)が損益通算できないのと同じ切り分けとなる可能性があります。
また、5年を超えて保有した資産に係る長期譲渡所得も適用されないことがわかります。
制度の詳細については今後の法律や下位府令の整備に注目しましょう。
税制改正のスケジュール
分離課税と繰越控除については
| (注1)上記①及び③の改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日(以下「適用開始日」という。)以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用する。 |
令和8年度与党税制改正大綱 p53
と記載されています。
下位府令や自主規制規則、事業者の体制整備を前提としつつ、改正金商法の成立が早くて2026年、施行が27年となることを考えると、早くて2028年1月1日以降の譲渡等が分離課税の対象となると読み取れます。
分離課税へ移行した場合の影響
暗号資産取引、利用の普及拡大
分離課税に移行することで、従来、他の金融商品と比べて「税金が高い」と受け止められやすいものが払しょくされ、個人投資家にとって暗号資産取引の魅力が増し、取引が活性化、暗号資産全体の流動性が高まる可能性があります。
かつて2017年はビットコインの日本円建て取引の割合が40%超と、米ドルなどの他の法定通貨建てのシェアを上回ってトップとなっていました。世界でトップクラスの暗号資産税率である日本が、再度暗号資産の中心地となる日が訪れるかもしれません。
暗号資産取引、利用の普及拡大
利用者の一層の拡大と取引量や回転数の増加により、日本の暗号資産、Web3産業が活性化することも期待されます。
一方で、金商法に移行することにより、現在の暗号資産交換業者等は第一種金商業に相当する規制が適用され、特に発行者のいる暗号資産の売り出し時の情報提供の充実、不公正取引規制、セキュリティの確保などの制度対応が求められます。
また、無登録業者への対応や、投資アドバイス等に係る不適切行為への対応などの業規制も検討されています。
損益計算と確定申告は今後も必要?!
分離課税になることで、株式における源泉徴収の仕組みをイメージされる方が多いかと思います。しかし、投資家自身が損益を計算し、確定申告と納税を行う仕組みは継承されることが予想されます。
それは暗号資産そのものが本来持つ性質に起因します。
暗号資産は、個人がウォレットを介して世界中の相手に対し24時間365日送金可能なPeer-to-Peer性を備えるほか、DeFiによりプログラマブルな金融取引を行えるという特徴があります。これらの特性を前提とすると、単一の機関が利用者の取得単価および実現損益を正確に把握・集計することは容易ではありません。また、暗号資産で広く採用される総平均法は、平均取得単価が年末になって初めて確定するため、結果として本来不要な税額が徴収される事態が生じ得ます。
また、損益通算が導入された際には、損失となってしまった年においても確定申告を行うことで柔軟な運用をすることが可能となります。
日々の投資成績の管理にとっても損益計算は重要です。特に複数の取引所やウォレットを利用しながら運用で成績を収めるには、取引記録の管理と正確な取得単価、損益計算を徹底しておくことが肝要です。
制度の詳細は明らかでないですが、どのような結論になっても説明可能な形で損益管理を整え、将来の調査対応や延滞税・追徴のリスクを抑えましょう。
特に昨今、海外取引所の日本からのアクセスが厳しくなっています。確定申告期に「取引履歴が取得できない」ということがないよう、今のうちにダウンロードしておくと安心です。
暗号資産の損益計算ツール「クリプタクト」を使えば、API連携できる取引所のデータと連携し自動で反映させたり、ウォレット接続によりDeFiやNFTの取引履歴をインポートして自動で取引種類を識別するなど、ミスなく安心かつ効率的に損益を計算し、確定申告と税金の納付を行うことが可能です。
まとめ
令和8年度与党税制改正大綱では、暗号資産の課税を大きく見直し、一定の暗号資産・取引について申告分離課税(税率20%)へ移行し、3年間の損失繰越控除を創設する方向性が示されました。
これらは、暗号資産の普及拡大に伴う、投資家保護や不公正取引防止のための法整備(金商法上の位置付け等)が前提とされています。それにより、現行の暗号資産税制の課題である、総合課税(最大約55%)や損失繰越不可が解消される見通しです。
詳細な税制、つまり分離課税の対象となる、銘柄の範囲や、取引種類は今後の制度設計で明確化されます。
適用時期は改正金商法の施行と業界の整備次第で、早ければ2028年以降が想定されます。
税負担の平準化による市場活性化が期待される一方、取引記録の保全と損益管理、確定申告は引き続き重要ですので、クリプタクトを使ってきちんと損益を計算しつつ、今後の誤論を注視していきましょう。



