
監修:元国税局職員で現在は、たまらん坂税理士法人の代表を務める坂本税理士
仮想通貨(暗号資産)投資が普及する中、多くの投資家が税務上の取り扱いに不安を抱えています。特に「税務調査」という言葉は、投資家にとって大きな不安要素となっているのではないでしょうか。
この記事は、海外取引所や海外移住で仮想通貨(暗号資産)の税金対策に本当になるのか、国税庁はどこまで見ているのか、また仮想通貨(暗号資産)取引をしている方なら耳にしたことがあるであろう仮想通貨(暗号資産)の税金にまつわる噂について、税務調査の実態とともに解説します。
目次 |
「仮想通貨(暗号資産)の海外取引所ならバレない」は誤解
「海外の取引所を使っていれば税務署にバレない」という話を聞くことがありますが、それは完全な誤解です。
国税庁は海外取引所の情報も把握している
日本は世界各国との租税条約を締結しており、すでに海外当局を通じた取引情報の収集を行っています。さらに、OECDが主導する国際的な金融口座情報の交換制度が存在し、2026年以降、各国間で仮想通貨(暗号資産)の取引情報の効率的な共有が開始される予定です。つまり、「海外だからバレない」というのは単なる過去の話であり、国際的な口座情報交換体制が強化される中、海外取引所を利用していても課税逃れはできないのです。
国税庁は既に国内取引所からの資料提供を受けており、さらに国際的な情報共有の枠組みも整備が進むことで、税務当局が仮想通貨(暗号資産)の所得を把握することはますます容易になっていくと考えられます。
暗号資産デビットカードやDEXも追跡対象に
仮想通貨(暗号資産)の利用方法が多様化する中で、暗号資産デビットカードや分散型取引所(DEX)を利用した取引も、税務当局の監視対象となりつつあります。
暗号資産デビットカードは、チャージされた仮想通貨(暗号資産)を法定通貨に換えながら買い物などに使える便利な手段ですが、その取引履歴はカード発行元を通じて税務当局のチェックを受ける可能性があります。
また、中央管理者のいないDEXを利用した取引も、税務当局でブロックチェーン上の取引履歴を分析することで把握する取り組みが進んでいます。
海外口座でも国内口座同様、利益が出たら確定申告が必要
仮想通貨(暗号資産)取引で生じた利益は、国外・国内取引所の所在地に関わらず居住地での課税がされます。会社員の方が副業として仮想通貨(暗号資産)取引をした場合、その所得は「雑所得」として扱われ、20万円を超える場合、確定申告を行う必要があります。
日本の税制は「居住者主義」を採用しており、「日本に住んでいる人は、海外で得た資産も課税する」仕組みとなっています。そのため、海外取引所で得た利益も日本の税務署に申告する義務があります。
なお、一定の条件に当てはまる場合は20万円以下でも確定申告が必要となるため、少額であっても仮想通貨(暗号資産)の利益は適切に申告することが求められます。悪意・重過失である無申告は脱税行為と見なされる可能性があり、ペナルティの対象となる点に注意が必要です。
海外取引所の取引が課税対象になるタイミング
仮想通貨(暗号資産)の取引は、国内外を問わず「利益が確定した時点」で課税対象になります。
例えば、海外の取引所で仮想通貨(暗号資産)を売却して米ドルやUSDTなどの法定通貨・ステーブルコインに換えた場合、または他の仮想通貨(暗号資産)と交換したり、商品・サービスの購入代金として支払ったりした場合に、利益が確定したものとして課税対象となります。
他にも、マイニングやステーキング等の報酬やエアドロップなどで仮想通貨(暗号資産)を得た場合、その時価相当額が利益として課税対象となります。
日本円に換金していなくとも、日本円換算で利益が認識される点に注意が必要です。
海外からの仮想通貨(暗号資産)送金と税金の関係
海外取引所や分散型取引所(DEX)などから仮想通貨(暗号資産)を送金する際の税金との関係について見ていきましょう。
自分のウォレットへの送金は非課税
自分の取引所口座や、ウォレットの間で仮想通貨(暗号資産)を移動させるだけであれば、基本的に税金は発生しません。
これは、送金によって仮想通貨(暗号資産)の所有者が変わっておらず、単なる資産の移動と見なされるためです。
ただし、送金の過程で一度別の通貨に交換したり、他人のウォレットに送金した場合などは課税対象となる可能性があります。
送金用にトランザクション手数料が安い通貨に一時換金する場合などは、特に注意が必要でしょう。
売却・貸与時の利子・ICO等の目的なら課税対象
送金によって仮想通貨(暗号資産)の譲渡が行われる場合は、課税対象となります。
例えば、仮想通貨(暗号資産)を相手に売るために送金した場合、当然のことながらその売却益が課税対象となります。
また、ICO・IEO・IDOなどに参加するために仮想通貨(暗号資産)を支払う場合も、仮想通貨(暗号資産)を売却して新たな仮想通貨(暗号資産)を得る売却取引に該当するため、その利益は課税対象となります。
なお、仮想通貨(暗号資産)の貸与(レンディング)の場合は通常、仮想通貨(暗号資産)の譲渡は発生しません。一方で、相手から支払われる利子は課税対象となります。
プレゼント送金は贈与税の対象になる可能性あり
仮想通貨(暗号資産)を家族や友人など他人にプレゼントした場合、譲渡した側については譲渡ではあるものの無償であるため利益が発生しないことになります。そのため、所得税の課税対象ではありません。
ただし、その譲渡が「対価のない贈与」と見なされる場合、受け取った側が「贈与税」の課税対象となる可能性があります。
日本の居住者が年間110万円相当を超える贈与を受けた場合、原則として贈与税が課されることになっており、これは海外からの送金であっても変わりありません。
「海外移住で仮想通貨(暗号資産)の税金対策」の落とし穴
「仮想通貨(暗号資産)で大きな利益が出たから海外移住して節税しよう」と考える人も少なくありませんが、多くの場合、効果はありません。含み益のある仮想通貨を保有した個人が海外移住し、日本の非居住者になって、海外で仮想通貨の利確を行った場合、現行税制では原則として日本の所得税の課税はされません。
ただし、税務上の「移住」には厳密な要件があります。単に一時的に海外に滞在しても「長期旅行」と見なされることがほとんどです。その場合、帰国した時点で課税されるため、税金対策としては機能しないのです。
税務上の海外移住が認められるためには、以下のような条件が総合的に判断されます:
● 生活の本拠地が完全に海外に移ったと認められること
● 家族も一緒に海外に移住していること(日本国内に扶養者がいない)
● 財産や資産が日本国内にないこと
● 日本での仕事や社会的つながりが断たれていること
● 海外での永住権や就労ビザを取得していること
単に物理的に海外に住むだけでは「税務上の移住」とは認められず、安易に「海外移住で節税」と考えるのは危険です。税務署は、実質的な生活拠点が日本にあるか海外にあるかを、様々な要素から判断します。
だれが税務調査されるのか?
「自分は税務調査の対象になるのか」と不安に感じている人も多いかと思いますが、結論からいうと、誰でもその可能性はあります。
仮想通貨(暗号資産)の先物取引(ある商品を、将来の決められた日に、取引の時点で決められた価格で売買することを約束する取引を行うこと。)を行うと、取引所から税務署へ自動的に資料情報が送られる仕組みになっています。それゆえ、国税庁はたとえ少額であってもその口座情報をもっていることになります。
また、税務署は膨大なデータを蓄積し、AIを活用して異常を検知するシステムを整えています。単に申告漏れを調査するだけでなく、データ分析によって不正を見つけ出す能力を持っているため、「このくらいならバレないだろう」という考えは非常に危険です。
個人の所得や資産の増減、取引パターンなど、様々な角度からデータを分析し、不自然な点があれば調査対象となる可能性が高まります。特に高額な取引や急激な資産増加があった場合は、注意が必要です。
特定プロジェクトを狙い撃ちにする税務調査も
過去には「AAコインのICOに参加した人が税務調査の対象になった」という噂がありました。実際にAAコインの調査に関与した坂本税理士によれば、セミナー形式で「ドバイで仮想通貨を換金すれば税金がかからない」と勧誘する脱税スキームがあり、結果的に主催者も参加者も摘発され双方が刑事告発されました。
このように、特定のプロジェクトをきっかけに税務調査が入るケースもあります。特に、明らかに脱税を目的としたスキームや、不自然な取引が多いプロジェクトは、税務署の監視対象となりやすいと言えるでしょう。
不正な節税スキームに関わることは、税務調査のリスクを大幅に高めるだけでなく、ペナルティの対象ともなります。節税と脱税は明確に異なるものであり、違法な脱税スキームには決して手を出さないことが重要です。
無予告の税務調査も
税務調査は通常、事前に通知されるものですが、悪質なケースでは無予告で行われることもあります。
通常は事前通知がありますが、悪質なケースでは無予告で行われることもあり、実際に、AAコインのケースでは、税務署員が朝8時半にいきなり自宅の前に立っていたという事例もあるとのことです。
意図的な脱税が疑われる場合には、このような厳しい対応が取られることもあるようです。税務署は、証拠隠滅のリスクがある場合や、明らかな脱税の疑いがある場合には、無予告の税務調査を行う権限を持っています。
確定申告の無申告・過少申告のペナルティとは
仮想通貨による所得の確定申告漏れが発覚した場合は、以下のようなペナルティが課されます:
まず、申告漏れした本税の差額分に加え、以下の加算税等が更に賦課されます。
● 延滞税:納付期限を過ぎた場合に課される税金
● 加算税:
- 過少申告加算税(申告はしたが金額が少なかった場合)
- 無申告加算税(申告自体をしなかった場合)
● 重加算税:悪質なケースの場合に課される、より重いペナルティ
詳しくは関連記事のなかでも解説していますのであわせてご覧ください。
これらのペナルティは、単なる利子だけでなく、本来支払うべき税額に対して相当な割合で上乗せされるため、結果的に大きな負担となる可能性があります。
納税資金がない場合の対応
税務調査でペナルティが発生し、納税が求められた場合、手元に現金がなかったらどうなるのでしょうか?
納付期限は修正申告書を提出した日です。その日までに納税できなければ延滞税が発生します。分割払いも可能ですが、資産がある場合は売却を求められます。
特に注意すべき点として、「仮想通貨(暗号資産)を売却すると売却益に対してさらに税金が発生するため、負の連鎖が起こりかねない」と指摘されています。利益が出た時点できちんと税金の準備をしておくことが重要です。
仮想通貨(暗号資産)投資で利益が出た場合は、その時点で税金分を確保しておくことで、後々の納税資金不足を防ぐことができます。計画的な資金管理が、仮想通貨(暗号資産)投資においても非常に重要と言えるでしょう。
正しく申告することの重要性
国内取引所だけでなく、今後は海外取引所の情報も把握できるようになる中、適切に申告を行うことが重要です。
なお、海外取引所を利用し外貨建ての取引を行った際や仮想通貨(暗号資産)での購入(仮想通貨同士の交換なども)は計算が複雑になる傾向にあります。取引履歴は必ず記録しておくようにしましょう。
しかし、実際に取引履歴を参考に利益を計算するのはなかなか骨が折れる作業であり、専門的な知識が無ければ難しいのでは?と感じる方も多いと思います。
国税庁では「暗号資産の計算書」を用意していますが、国税庁の計算書エクセルは簡易的な作りとなっており、取引は全て自分で手入力する必要があります。取引回数や取引銘柄数、利用取引所が増えると計算が複雑になるうえ、すべて日本円に直す作業はとても大変です。
※参照元URL:国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和6年12月)|国税庁」
そこでおすすめなのが、仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」の活用です。複数の取引所の取引履歴を一括管理し、自動で損益計算を行うことができるため、確定申告の手間を大幅に軽減することができます。
無料で使えるFreeプランもありますので、ぜひお試しください。
本記事の内容は坂本先生にインタビュー動画はもとに作成しています。全編をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。[Youtubeに遷移します]