
現在、日本の税制では、暗号資産(仮想通貨)取引による所得は、原則として「雑所得」に分類されます。したがって、帳簿付けは必須ではないケースが大半です。
しかし、副業として一定規模以上の反復継続的取引を行う場合など、「事業所得」として認められる可能性もゼロではありません(例:トレーダーとして収益を得ている、暗号資産(仮想通貨)の情報発信で広告収入を得ている等)。ただし、事業所得に該当するかどうかの判断は専門的な解釈を伴い、税理士への確認が必要です。
この記事では、「暗号資産(仮想通貨)取引が事業所得として認められるケース」に該当する方を前提とし帳簿付けに関心のある方向けに、複式簿記の必要性や実際の記帳方法について詳しく解説します。
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そもそも暗号資産(仮想通貨)取引は事業所得になるのか?
原則として、暗号資産(仮想通貨)による所得は「雑所得」に分類されます。
これは国税庁の見解でも明示されており、あくまで例外的に「事業所得」として認められるケースがあるという位置づけです。
参考:国税庁FAQ No.1350 事業所得の課税のしくみ
事業所得と認められるには、以下のような要素が必要とされます:
● 暗号資産(仮想通貨)取引による年間収入が一定規模以上ある
● 帳簿や関連資料を整備・保存している
● 営利性・継続性・反復性のある取引形態である
たとえば、暗号資産を用いたファンド運用や、暗号資産(仮想通貨)系YouTuberによる収益活動などが、事業所得として認められる可能性があります。ただし、事業所得として認められるケースは非常に稀であるといえます。
事業所得として認められる条件についてより詳しく知りたい方は、ページ下部の関連記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
事業所得に該当する場合は複式簿記が必須
暗号資産(仮想通貨)取引が「事業」として認められた場合、記帳方法には『複式簿記』が求められます。
なお、記帳の方法には、簡易簿記と複式簿記の2つがあります。
『簡易簿記』とは、「収入」と「支出」に注目して取引を記録していく形式のことです。あくまでもお金の出入りにだけ注目し、その取引の対となる資産や負債の動きは記録しないため、単式簿記とも呼ばれます。一般的に 、おこずかい帳、家計簿などがこれに当たります。
一方で『複式簿記』とは、すべての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」と呼ばれる二面構造で取引を記録する形式のことです。収益・費用・資産・負債などの動きをより正確に記録できる一方で、記帳には簿記の知識が必要になります。
青色申告で65万円控除を受けるためにも、複式簿記による帳簿の整備は前提(必須)条件です。
もちろん記帳者側にもメリットがあり、複式簿記を使うことで、損益や資産状況を正確に把握でき、税務署に対しても帳簿の正確性を証明しやすくなります。
複式簿記の特徴と基本構造
複式簿記とは、すべての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の二面構造で記録する簿記方式です。

この仕組みにより、以下のような財務状況の正確な把握が可能になります:
● 暗号資産(仮想通貨)を購入したときの資金移動
● 売却益の計上とその根拠
● 預け金や暗号資産(仮想通貨)の銘柄ごとの残高管理
記帳には一定の簿記知識が必要ですが、会計ソフトを導入すれば初心者でも比較的容易に運用できます。
暗号資産(仮想通貨)取引の帳簿付けの例:複式簿記の場合
続いて、複式簿記での帳簿付けについて具体例に沿って見ていきましょう。
複式簿記では全ての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の両面に分解して記録するため、お金の出入りだけでなく、資産や負債の動きまで正確に反映することができます。
複式簿記の記帳には基礎知識が必要になりますが、青色申告で65万円控除を目指す方にとっては非常に有効な方法と言えるでしょう。
ここでは主な事例についてご紹介していきます。
暗号資産(仮想通貨)を購入した場合
銀行の普通預金から、暗号資産(仮想通貨)取引所へ入金したとき

複式簿記では、銀行から取引所への資金移動も記録します。
これは、銀行の「普通預金」と取引所の「預け金」は簿記上の勘定科目が異なる、別の資産であると考えるためです。
なお、借方とは増加する資産のことで、貸方は減少する資産のことです。
そのため、この記帳では貸方の資金の出元である「普通預金」を記載し、借方に資金の行先である「預け金」を記載しています。資産の内訳が移動しただけですので、資産の合計額は変わりません。
なお、こうした勘定科目は必要に応じてオリジナルの補助科目に細分化もできます。
自分にとって管理しやすい勘定科目を考えるのも良いでしょう。
例:勘定科目:預け金 補助科目:取引所A、取引所B など
暗号資産(仮想通貨)取引所でビットコインを購入した場合

取引所の預け金を使って暗号資産(仮想通貨)を購入した場合、貸方で預け金を減少させ、借方で暗号資産(仮想通貨)を増加させる記帳を行います。
複数の暗号資産(仮想通貨)銘柄を保有している場合は、銘柄ごとに補助科目を分けて管理するのも良いでしょう。(ビットコイン、イーサリアムなど)
なお、確定申告に向けて損益計算をする際には、暗号資産(仮想通貨)の平均取得単価が必要になります。どの通貨を何枚、いくらで購入したかの情報が必要になりますので、備考欄などを活用して記録しておくようにしましょう。
暗号資産(仮想通貨)を売却し、利益を得た場合
暗号資産(仮想通貨)取引所でビットコインを売却したとき

複式簿記では、必ず借方と貸方の金額が一致します。
そのため、暗号資産(仮想通貨)を6万円で売却した場合、その内訳は「暗号資産(仮想通貨)の取得原価」と、そこから生じた売却益に分解して記帳します。
ただし、取得原価の計算方法として「総平均法」を採用している場合は、年末になるまで暗号資産(仮想通貨)の平均取得単価が確定しません。
そのため、売却時点では仮に概算の取得原価で記帳し、年末に正確な平均取得単価が判明した時点で差額を調整仕訳として記録するなどの工夫が必要なります。
実務上は、暗号資産(仮想通貨)の取引を帳簿外のスプレッドシートや損益計算ツールで管理し、帳簿には年末に一括仕訳のみを記録するという運用も現実的でしょう。
暗号資産(仮想通貨)取引を年末に一括仕訳する場合

なお、損益計算は暗号資産(仮想通貨)の銘柄ごとに行いますが、雑所得内であれば損益通算が可能です。
そのため、例えばビットコインの利益とイーサリアムの損失を相殺して、残った利益(または損失)だけを計上する取り扱いも可能です。
NFTや商品の購入に暗号資産(仮想通貨)を使用した場合
暗号資産(仮想通貨)を売却する仕訳

NFTを購入する仕訳

暗号資産(仮想通貨)でNFTやその他の商品・サービスの支払いを行った場合、「暗号資産(仮想通貨)を時価で売却して得た日本を使って購入した」ものと見なされます。
そのため、会計上は暗号資産(仮想通貨)の売却と、NFTの購入という2つの取引が発生します。
ただし、複式簿記では1つの仕訳に複数の取引要素を含めることが可能なため、暗号資産(仮想通貨)の売却とNFTの購入という2つの動きを、1つの仕訳にまとめて記帳することもできます。
取引をまとめて仕訳した場合

実際には資産の入れ替え(暗号資産(仮想通貨) → NFT)が行われているだけですが、会計上は損益が発生する点に注意しましょう。
ステーキング等の報酬を受け取った場合
暗号資産(仮想通貨)で各種報酬を受け取ったときの仕訳

暗号資産(仮想通貨)の報酬(ステーキング、マイニング、レンディングなど)を受け取った場合、その時点の日本円換算額が雑所得として課税対象になります。
複式簿記では、それぞれ「雑収入」などの勘定科目を使って記録することが一般的です。
必要に応じて、補助科目に細分化するのも良いでしょう。(ステーキング報酬・マイニング報酬など)
なお、エアドロップによって無償で暗号資産(仮想通貨)を取得した場合も基本的には上記と同様となりますが、取引所に上場していないなど市場価格がない暗号資産(仮想通貨)を受け取った場合は「0円」の評価となります。
記帳作業には暗号資産(仮想通貨)の損益計算ツールの活用が便利
実際のところ、暗号資産(仮想通貨)の帳簿付けを複式簿記で正確に行うには、すべての取引について「いつ・いくらで買ったか」「いつ・いくらで売ったか」を正確に把握している必要があります。
しかし、取引所が複数に分かれていたり、売却のたびに異なる取得単価を追う必要があったりと、手作業での管理には限界があります。
そこで役立つのが、暗号資産(仮想通貨)損益計算ツール「クリプタクト」です。
● 取引履歴の自動取り込み(国内外130以上の取引所対応)
● 総平均法や移動平均法に基づく自動計算
● 仕訳に活用できる「損益まとめデータ」の出力
こうした機能を活用することで、正確な帳簿を支える「計算部分」の負担を大きく軽減できます。
クリプタクトなら、取引履歴の読み込みから損益計算までを一括でサポートします。