この記事では、仮想通貨取引を事業所得に計上できるかどうかについて、税務処理の指針や仮想通貨における事業所得の扱いの変更点を解説したのち、事業所得として認められるための要件や留意点などを仮想通貨の税務に精通している税理士が詳しく解説します。
目次 |
仮想通貨における税務処理の指針
国税庁のサイトでは仮想通貨における税務処理の指針となる資料として「暗号資産に関する税務上の取り扱いについて(情報)」(以下、「暗号資産FAQ」)が公開されています。中でも令和4年12月における更新では、仮想通貨の利益を事業所得として計上したい投資家にとって重要な更新が行われました。
結論を先に述べると、年間の仮想通貨取引に係る収入金額が300万円を超える場合は、仮想通貨取引に関する帳簿書類を作成・保存することで、その収入を事業所得として申告できるとの指針が示されました。
しかしながら、実際に仮想通貨の取引を事業所得に計上するにはそれなりにハードルが高いと見られています。
事業所得に計上することで、青色申告特別控除や損失の繰り越し、損失の相殺など多くの面で税務上のメリットがあり、雑所得に計上するよりも事業所得に計上する方が総合的に税金は下がりやすい傾向があります。そのため、仮想通貨の取引を事業所得に計上したいという要望は多く、令和4年12月の改正により事業所得に計上するためにはどの要件が必要になったのか気になる方は多いと思います。
ここからは仮想通貨における事業所得の取り扱いに関する変更点と、事業所得として計上する際のハードルについて解説していきます。
※「暗号資産FAQ」の最新版は2023年(令和5年)12月25日に更新されておいますが、この事業所得に関する部分は令和4年12月のまま変更がなく、執筆時点(2024年7月)においては最新のものとなっています。
「暗号資産FAQ」は過去に遡っても概ね毎年更新されています。過去の更新履歴は国税庁の「過去分の情報(暗号資産関係)」よりご確認いただけます。
複雑な暗号資産の税務に関して、国税庁に問い合わせが来るよくある質問や、他の税制改正をベースに毎年修正や加筆が行われています。
仮想通貨における事業所得の扱いの変更ポイント
令和4年12月の改正点を要約すると、下記のようになります。
なお、暗号資産FAQには記載がないものの、実際に事業所得として認識するためには、上記の要件以外にも、税務署に開業届を提出するなどの事業所得として申請するための手続きが別途必要になるので、留意したいところです。
以下でこのようになった経緯をご説明します。
令和4年12月の国税庁FAQにおいて、「2-2 暗号資産取引の所得区分」が改正されました。
従前までの国税庁FAQにおいては、「暗号資産取引自体が事業と認められる場合」に事業所得として計上されることとなっており、事業として認められる場合とは、「暗号資産取引の収入によって生計を立てていることが客観的に明らかである場合など」と明記されていました。
要は、仮想通貨以外の収入があり、それによって生計を立てている場合は事業所得として認められないこととなっていたのです。
参考URL:国税庁HP「暗号資産に関する税務上の取り扱いについて(情報)令和3年12月22日」
令和4年12月の改正においては、原則として雑所得という方針自体は変わらないものの、1年間に300万円を超える収入金額があり、かつ、暗号資産取引にかかる帳簿書類の保存がある場合は、事業所得として区分されるという部分が記載されました。
参考URL:国税庁HP「暗号資産に関する税務上の取り扱いについて(情報)令和4年12月26日」
仮想通貨取引を事業所得にするには帳簿保存が必須
令和4年12月の暗号資産FAQの改正において、収入300万円超とともに、帳簿書類の保存が事業所得の要件として求められています。
この、帳簿書類の保存とは具体的にどのようなものを作成し、保存することとなるのかについての疑問を持つ方も多いことでしょう。
ここについては、明確な回答がないものの、おそらくは所得税法で定められている種類の帳簿や書類を作成・保管する必要があると考えます。
所得税法で定められている種類の帳簿や書類とは、概ね下記のようなものを指しており、こういった資料を書類として適切に保管する必要があると考えます。
また、仮想通貨取引に関しても帳簿書類が必要ですが、これについてはどの程度のレベルまで求められているかは現状未回答となっています。
要は、すべての仮想通貨のトランザクション(取引)を1つ1つ振替伝票を起票し、仕訳計上して印刷保管する必要があるのか、またはある程度簡易的なものを作成して保管する場合でも認められる可能性があるのかどうかについては、明確な回答がない状態となっています。
仮想通貨取引を事業所得にする際の留意点
令和4年12月の改正を受けて、仮想通貨取引の収入が300万円超で、帳簿書類も保管しているために事業所得として計上できる、と理解された方は多いかと思います。
ですが、事業所得として認識するには、より慎重に判断した方が良いと考えます。
仮想通貨取引を事業所得として認識するためには、暗号資産FAQのみでなく、令和4年10月7日に公表された所得税基本通達も意識しなければならないと見られているためです。
この所得税基本通達の改正において、「事業所得として認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判断する。」と記載されています。
つまり、上記の収入300万円超かつ帳簿保存といった要件以外にも、社会通念で事業として認められるかについての実質的な判断も必要になるということです。
具体的には、下記の判断基準から総合的に判断することとなります。
【社会通念上、事業として認められるかどうかの判断基準の事例】
|
また、それ以外にも開業届の提出などの形式的な手続きも必要になります。
結果として、暗号資産FAQのみの情報で事業所得として判断するのはリスクがあると考えます。
実際に事業所得として進めるのであれば、専門家等と相談の上、慎重に判断して進めていくことを推奨します。
なお、参考までに自主規制団体である日本暗号資産取引業協会 (JVCEA) が公表している「暗号資産取引業における主要な経理処理例示」を参照すると、かなり粒度の細かい処理が必要になります。帳簿の作成には現時点で取引所等から取得できない情報が必要になる可能性もあり、現時点では事実上ハードルが非常に高いといえます。
例えばDeFi含めウォレットを介した取引をされたことがある方は、さらにハードルが高く、この粒度の処理が求められるとするのであれば、現時点では事実上困難である可能性が高いといえます。
まとめ:仮想通貨を事業所得にするなら経理負担を考慮した取引を
この記事では暗号資産FAQや関連通達に基づいて、仮想通貨取引を事業所得にすることが可能ではあるものの、そのハードルが非常に高いと考えられることについて解説しました。
特に経理処理の面においては、取引内容が複雑になるほど経理負担が大きな障害となります。取引所での取引しかない方であっても、単純な現物取引以外の取引経験があると引き続きハードルは高いと考えられます。
一方で、取引所での現物の取引しかしたことがない、かつ外部へのウォレットへの入出金をしたことがない方であれば、経理処理のハードルは下がると言えるでしょう。 仮想通貨取引を事業所得にすることを検討している場合は、取引に際してこうした経理負担についても考慮しつつ判断していくと良いでしょう。
仮想通貨専門の損益計算ツール「クリプタクト」を運営する当メディアでは今後も仮想通貨投資をするなら知っておきたいトレンドワードや税制について解説した記事を公開していきますので、最新情報を知りたい方はぜひクリプタクトへアカウント登録またはTwitterのアカウント をフォローしてください。