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ビットコイン(BTC)における半減期と価格の動向について

仮想通貨コラム
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執筆:斎藤 岳

5月12日に来ると想定される半減期とその与えるビットコイン(BTC)価格への影響について考えてみたいと思います。

一般論として、半減期前後でビットコインの価格は上がるといわれています。過去の事例を見ながらその検証であったり、また背景となる考えについて触れつつ、今回の半減期においても同じ話が当てはまるかどうか、などを見ていきたいと思います。

※本記事はLiquid様のブログに代表の斎藤が寄稿したものになります。

過去の半減期の検証

ビットコインは2009年1月に最初のブロックが生成され、それから11年以上に渡りマイニングによるブロック生成が続いています。 
当初のブロック報酬は50BTCありました。その後、2回半減期を迎えており、3回目が2020年5月12日にあると予想されています。

最初の半減期は2012年11月28日でした。このときブロック報酬は25BTCに下がり、2回目は2016年7月9日で報酬は12.5BTCとなりました。 
この2回の半減期における、ビットコイン価格の動向についてまず調べてみました。

図表1は最初の半減期の前後3カ月のビットコイン価格のグラフです。図表2は2回目の半減期の前後1年、図表3は前後3カ月となります。 
残念ながら2012年の半減期については古すぎて価格データがさらに過去1年分さかのぼって十分に取得できなかったため、前後3カ月のみとなっています。


 

図表1:最初の半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)

図表1:最初の半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)


 

図表2:2回目の半減期から前後1年のビットコイン価格(クリプタクト調べ)

図表2:2回目の半減期から前後1年のビットコイン価格(クリプタクト調べ)


 

図表3:2回目の半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)

図表3:2回目の半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)


 

まず最初の半減期についてですが、半減期を迎えるまで価格はほぼ横ばいでした。半減期以降は徐々に上がり始め、1か月経過した頃からさらに価格上昇しています。前後3カ月の期間で価格は4倍弱に上昇しました。

2回目の半減期では、図表2の通り前後1年でみるとビットコイン価格は2倍どころか5-6倍になっています。 
ただし、2017年については半減期要因だけではないと考えられ、半減期要因と言えるかどうかは何とも言えないかと思います。

最初の半減期と同様、前後3カ月でみた図表3をご覧ください。この時は半減期から2カ月くらい前から価格が上昇しピークを半減期1か月前の頃につけています。半減期を迎えてからは約1か月後に価格は下がっており、その後徐々に回復していきました。

このように最初の半減期では綺麗に価格上昇されましたが、2回目においてはそれが強く意識されたのか先に価格上昇を織り込みにいった可能性があります。


 

半減期と価格の上昇について

そもそもなぜ半減期になると価格が上昇すると言われるのでしょうか。

もっともよく挙げられる話としては、マイナーは電力を消費してブロックを掘りビットコインを報酬として得ますが、ビットコインを換金するために売却する数量が半分に減るため、売買の需給が引き締まる、というものです。

また、過去の半減期においても価格上昇の傾向があったため、半減期=価格上昇というイメージも強くなりました。

半減期によってマイナーによる換金売りの枚数が減るのは間違いないため、売り手減少による価格上昇効果は一定程度確かなものと考えられます。 
一方で、この考えは需給に着目した考え方であるため、冷静に見なくてはならない点として実際の流動性に与える影響かと思います。

現在10分に1回、ビットコインが12.5枚生成されますが、2020年5月以降は6.25枚に減少されます。 
仮にブロック報酬を得たマイナーが10分に1回これらのビットコインを売却していたとして、その枚数が減少する分である6.25枚が、5月以降に10分に1回売りとして出てこなくなったことがどの程度価格に影響を与えるのか。 
需給をベースに考える場合は、この点は考慮しておく必要があると思います。

ビットコインは価格自体が過去に比べて大きく値上がりしていますが、ビットコイン建の流動性も過去に比べると増えていると思います。

そのうえで、過去に比べると半減期における売り圧力の減少分が絶対値として少なくなっていることから、流動性対比で売買の需給に与える影響度は過去と比べて小さくなっている可能性は十分あると思います。

つまり、引き続き売り圧力低下というプラス側面はあるものの、実際の需給におけるプラス影響はかつてに比べると小さくなっている可能性がある、ということです。

他にも、マイナー側の論理になりますが「価格が上がらないと採算悪化するからコストベースの観点で価格上がらないと採掘が成立しない。 
電気代を考えた最低採算ラインの価格が上がる。」といった話もあります。

ただこれはマイナー側の希望に近い話ではあるので、これが理由で価格が上がるというのはやや説得力に欠けると思います。

市場は異なりますが、直近では原油価格が生産における採算ラインを下回るなど、原油を見ても生産側の論理が必ずしも通用していません。

同じことはビットコインでも当てはまると考えられ、むしろ価格上昇しない場合はマイナーの撤退などによるハッシュレートの減少と結果的に生じる難易度調整によっての採算性向上のほうが可能性は高そうです。

このように、半減期とそれによる価格上昇は必ずしも否定される内容ではないものの、本質的な影響という意味ではなかなか説明することが難しく、どちらかといえば過去2回における価格動向を前提とした観点が強いと思われます。

ただ、ビットコインの価格は現状需給やその背後にある思惑が全てでもあり、そういう観点でいうと半減期=価格上昇という思惑が強く働くのであれば結果的にそれを自己実現する可能性は十分にあると思います。

なお、この思惑による価格動向が主たる要因であったとする場合、これがどの程度織り込まれているか、というのは気を付けるべきことになります。

このような投資家側の意識が強く働く市場では、いかにあるイベントが織り込まれてるかというのが重要な点となります。 
一般的に同種のイベントが繰り返されるうちに織り込まれる時期が早まったり、あるいはイベントまでに何度かこの半減期の話で盛り上がったり忘れたり、と繰り返されるようになります。

最初の半減期と2回目の半減期における価格上昇の仕方の違いなどがそれを示しており、3回目である今回はさらに様々な思惑が絡みやすいと思います。

結局は投資家がどの程度半減期を意識しているか、あることを知っているのはほぼ全員だと思いますが、それをどの程度今の取引で意識しているかによって半減期直前及び直後での価格動向は変わりそうです。

そういう意味では、やや皮肉ではありますが、最近はコロナの話題で持ちきりでもあり、半減期の話を強くする機会が減ってきていると思います。 
すでに意識されてきたことではあるものの、いったんコロナで風化されそうになっている半減期の話は、5月に入って意識される局面は、コロナ以降の動向を見ていると短期的にはあり得るかなと感じています。


 

BCH及びBSVの例

直近でBCHが4月8日、BSVが4月10日に半減期を迎えました。 
ビットコインから分岐したこれらの仮想通貨が半減期以降どのような価格推移をしているか、同様に前後3カ月グラフにしたのが図表4及び図表5となります。


 

図表4:BCHの半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)

図表4:BCHの半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)


 

図表5:BSVの半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)

図表5:BSVの半減期から前後3カ月のビットコイン価格(クリプタクト調べ)


 

仮想通貨に限らず、コロナの影響で世界的に多くの資産価格が下落していたこともあり、必ずしも半減期のみの切り口で語れる期間ではないのですが、BCHやBSVの動向をみていると、2-3カ月前の時点で価格はピークをつけており、その後半減期の1か月前まで下がり続け、その後は半減期以降も価格をやや戻している、という動きをしております。

2016年の半減期における動き(ピーク→下落→回復)がさらに早まったような印象でもあり、織り込まれ方が早まっている印象を受けます。

マイナーの視点で言えば、BCHやBSVの採算性が半減期後に悪化するとビットコインの採掘に寄せることができたのですが、今回のビットコインの半減期後はそういう逃げ場がないともいえるので、BTC、BCH、BSVのいずれの採算性も悪化した場合のハッシュレートの影響は気になるところです。


 

価格上昇がなかった場合

どの程度の時間軸での話をするかにもよりますが、半減期以降でもビットコインの価格上昇がみられなかった場合について簡単に考えてみたいと思います。

前回の半減期と比較すると、今回はマイナーの数は多いなど裾野はとても広いです。 
半減期で価格上がらないと、当然こういったマイナーの採算性は悪化しますので、場合によっては電気代に見合わないなど撤退や新規参入の減少などが相次ぐ可能性があります。

その場合、ハッシュレートが下がることになりますが、これも傾向としてはハッシュレートが下がっていくとそれに応じて価格も下がっていく傾向があり、それがまたさらなるハッシュレート減少に繋がる可能性があります。

ただ、ハッシュレート減少によって難易度調整も行われるため、どこかの時点ではコストとリターンのバランスがとれて、ハッシュレートや価格は落ち着くだろうと思います。

そのためビットコインそのものについての懸念は特にないのですが、この間のハッシュレート減少によるブロックチェーンセキュリティの影響や、そもそも価格の動向は正直に言って非常に読みづらいです。

そのため、短期的には再度半減期が意識されることでの価格上昇の可能性は十分あり得るとは思うものの、中期的にはハッシュレートを横目で見ながら、それによって方向性が変わることは十分にあり得ると思います。

一方で、長期的な視点で見るのであれば半減期イベント自体が大きな影響を与えることはなく、むしろビットコインそのものの使われ方などの話がよほど大きな影響あるのかな、というのが個人的な見解となります。


 

プロフィール

代表取締役斎藤岳株式会社クリプタクト
代表取締役 斎藤 岳

新卒でゴールドマン・サックスに入社してから計12年間投資・運用を経験。 
不良債権、プライベートエクイティ、不動産、法的整理、上場株、債券、為替、金利、CDS、デリバティブなどへ最大800億円のポートフォリオを運用。

趣味は瀬戸内周辺への旅行

Twitter:@Cryptact_gaku