今月に入り、先物ETFの後押しもあり、ビットコイン(BTC)が史上最高値を更新するなど、仮想通貨(暗号資産)業界が盛り上がりを見せています。
その一方で、時価総額が2.5兆ドルになった仮想通貨への規制は避けられません。これまでなかった勢いで各国が規制の導入を進めてる中で、規制との共存、規制に見合った成長が今後のカギとなります。
ジャーナルでは、こういったグローバル仮想通貨規制について3本の記事でシリーズ化してまとめています。このシリーズでは、
「中国規制のこれまでの一連の経緯」
「米国の規制の論点」
「他国の規制の状況」
について詳しく説明していきます。
シリーズ2作目となるこの記事では、米国の仮想通貨について触れていきます。まず初めに米国規制の概要に触れ、主要な4つの観点を紹介します。次にその観点のうち2つ、「証券法」と「報告義務」について解説を行っていきます。
1作目と3作目は以下から見ることができます。
なお、このシリーズの内容は弊社代表のアミンが先日のビットコイナー反省会ライブで説明した内容が基になっています。動画も上がっているのでそちらもぜひご覧ください!
目次
1. 米国規制の概要
中国では事実上仮想通貨に関する規制が限界に達しました。その一方で米国における規制はどうなっているのでしょうか。
米国では、仮想通貨の時価総額の急増とそれによる規制の必然性から、今年に入ったあたりから仮想通貨規制の議論が活発に行われるようになっています。
米国における仮想通貨規制について、規制当局の着目点は主に以下の4つの分野にあると考えられています。
米国規制の論点1. 証券法:有価証券に該当するか?
2. 報告義務:KYC徹底による匿名性の排除
3. 制度的リスク:ステーブルコインの脅威
4. ランサムウェア:仮想通貨の闇
これら4つの論点のうち、本記事では「証券法」と「報告義務」の説明を行います。
2. 証券法(仮想通貨は有価証券?)
ひとつ目の論点は「証券法」です。ここでは主に「仮想通貨が有価証券に該当するか?」が議論されています。仮想通貨は以前から有価証券に該当するのか否かの議論がなされており、証券法がどこまで適用されるかが注目されています。直近では、SEC(米証券取引委員会)によるXRPの訴訟が話題になりました。
2.1 なぜ論点になっているのか
簡単に説明すると、仮想通貨が有価証券に該当すると認められた場合、規制当局の監督下に置かれることで規制が強化されるからです。規制によりICOがしづらくなったり、現在の仮想通貨取引所での取引が禁止されたりするなど、現在の仮想通貨とはまったく異なった経済圏になってしまう可能性があります。
2.2 仮想通貨の敵:Howey Test
仮想通貨が有価証券に該当するかどうかを判断するうえで重要になるのが、「Howey テスト」です。Howey テストとは、ある取引やスキーム、商品が1933年の米証券法に基づく投資契約に該当するかどうかを確認する方法の一つで、仮に投資契約に該当した場合、それは証券登録要件の対象となります。
上図がHoweyテストの概要になります。Howeyテストにおいては商品の特性を4つの軸で測り、この4つの条件を満たした商品が有価証券に該当します。
4つの軸のうち、「資金投資の有無」「共同出資・事業の有無」については、仮想通貨においてはあまり議論の的にはなってきませんでした。
仮想通貨でよく議論になるのは、「収益性の有無」と「勧誘・第三者の活躍の有無」です。
収益性の有無
ここでは、収益性(リターン)があるかどうかが議論されています。例えば、分配や配当はリターンに該当し、これらを約束したICOプロジェクトが取り締まられるといった事例もあります。またレンディングやステーキングがこれに該当するか、というのも論点の一つです。
勧誘・第三者の活躍の有無
ここでは勧誘・第三者の活躍の有無が議論されています。BTCを例にとると、匿名の人物が開発し世にリリース、その後も動き続けていることから、「勧誘・第三者の活躍」に該当せずコモディティであるという認識です。
最近では勧誘や第三者の該当範囲に注目が集まっています。例えばこの第三者に開発者が該当するとなれば、多くのDeFiプロジェクトはこれに該当してしまいます。また開発後に世にリリースした時点で、それが勧誘に当たるのではないかという議論もあります。「勧誘や第三者の該当範囲」は非常に重要です。これに関しては以下でも説明を行います。
2.3 取締事例
次に証券法に関連する代表的な取締事例やそれが与える影響について紹介します。
配当や分配金を約束したICOプロジェクト
2019年にICOBoxが、様々なICOの勧誘や分配や配当を約束したことでSEC(米国証券取引委員会)に提訴され、結果として15億円の罰金を科せられました。この一件以外にも数十件の取締事例があり、SECのICOに対する監視の目が非常に厳しいことが見て取れます。
資金調達手段で定期的に売り出しを行ったプロジェクト
2020年の12月、リップル(XRP)がSECに提訴されました。資金調達手段として定期的に売り出しを行ったことが、利益分配や勧誘の側面に繋がっているとみなされたためです。この訴訟は21年10月現在も進行中です。
この訴訟が大きな注目を集めた理由の一つとして、XRPが有価証券に該当するかどうかによって仮想通貨全体の議論が左右されるという見方がありました。ただ最近ではXRPが勝訴したところでそれ以外に対する議論は消えないのではないか(あくまでもXRPはone of them)という意見もあります。
ただし、仮にこの訴訟が最高裁までいけば証券法など制度の見直しにつながる可能性もあり、引き続き注目度は高いといえます。
仮想通貨取引所によるレンディングサービス
レンディングサービス(自分が保有している仮想通貨を取引所に貸し出し、貸借料を得るサービス)についても問題視されています。
現在も進行中のものだと、それぞれレンディングを手掛けるBlockFiが5州から、Celsiusが4州から提訴されるといった例があります。
Celsiusに関しては、21年10月にニューヨーク州から業務の停止命令を受けました。この命令に関しては、Nexoという同じくレンディングサービスを手掛ける会社も対象となっています。このようにレンディングサービスに関する取締事例は増加傾向にあります。
また2021年9月には、コインベースがSECの警告を受け、レンディングサービスを断念するという例もあります。(これに対しコインベースCEOのBrian Armstrongが怒りのツイートを連投し話題になりました。)
またレンディングという行為そのもの(資金を預けそれに対し利子を支払う)について、SECのゲンスラー委員長がHoweyテストを満たしている、つまり有価証券に該当するという発言を行ったことが話題になりました。このような行為はレンディングに限らず、様々な形態(DeFiのLPトークン、ステーキングなど)で展開されており非常にインパクトが大きい発言といえます。
2.4 今後の懸念材料
最後に、証券法に関する今後の懸念材料・注目点をいくつか紹介します。
SEC主導
証券法がSECの管轄のため、SEC主導で動いているというのが一つのポイントです。特にSECのゲンスラー委員長の発言には引き続き大きな注目が集まります。
レンディングとステーキングの違い
SECのゲンスラー委員長の、レンディングとステーキングが本質的には同じものだという発言が話題になりました。ゲンスラー委員長の「レンディングはリターンを期待している時点で有価証券に該当する」という発言を加味すると、同じものであるステーキングも有価証券となってしまいます。
仮にステーキングが有価証券とみなされると、環境破壊やエネルギー問題といったPoW(Proof of Work)の問題点を解決するPoS(Proof of Stake)の意義が脅かされる、またPoWに基づくETH1.0は有価証券ではなく、PoSに基づくETH2.0が有価証券に該当するといった事態に陥る可能性があるなど、仮想通貨全体の今後の方向性に多大な影響を与える可能性があります。
DeFiプロジェクトの位置づけ
2021年9月に、SECがDeFiプラットフォーム(Uniswap)とそれを支える組織(Uniswap Lab)を調査していると報じられました。
UniswapをはじめとしたDeFiは、分散型というのを武器にしていましたが、実際に運営元がガバナンスを行い手数料を取っている点や、インセンティブを得ている点などがこれまでも指摘されてきており、今回の調査に至ったと考えられています。
UniswapはDeFiの中でもトップクラスの存在感・分散性を誇っています。また、多くのDeFiプロジェクトがUniswapに由来しています。そのため、この調査結果がDeFiプロジェクトに与える影響は大きいと推測できます。
有価証券が取引可能な取引所は極めて限定的
仮に仮想通貨が有価証券に該当する場合、STO(Security Token Offering)経由の資金調達を行う必要があり、またこれが可能な取引所はかなり限定されてしまいます。
STO取引先は一般的な仮想通貨取引所とは全く異なるもので、STO自体も送金や売買が制限されるなど、現在の仮想通貨とは全く異なった経済圏・環境であることを認識する必要があります。
3. 報告義務(KYCの徹底による匿名性排除)
2つ目の論点は「報告義務」です。ここでは主に納税やマネーロンダリング対策についての議論がなされています。そこで重要になってくるのが「KYC(Know Your Customer:取引をしている人の特定)による匿名性排除」です。
KYCは「匿名性」という仮想通貨の大前提に反するという点で非常に重要な観点です。
これらに関しては、先ほどの証券法と異なり、財務省とIRS(税務当局:アメリカ合衆国内国際入庁)主導で行われています。KYC関連の規制に関しては今年のバイデン政権の民主党予算決議案やインフラ政策予算案の中にいくつか盛り込まれています。その具体的な内容を見ていきましょう。
3.1 具体的な内容
1万ドルを超える送金のIRSへの報告義務
これは民主党の予算決議案に新たに盛り込まれた内容です。これまでも現金取引についてはIRSの8300様式で1万ドル以上の送金に関して報告の対象となっていましたが、その対象が仮想通貨にまで及んだ形になっています。
海外口座の定期報告(FBAR等)
これは仮想通貨所有者に対して、海外の取引所で保有する仮想通貨について、年次のFBAR(Reports of Foreign Bank and Financial Accounts:外国銀行金融口座レポート)の提出を求めるというもので、税務調査の強化が目的とされています。
アメリカ人は、海外にある口座残高を毎年FBARで報告する義務があり、この報告対象の口座に仮想通貨の一部の口座が含まれていると指摘されています。
この報告義務を意図的に怠った場合、多額の罰金が科せられます。罰金は当年度の最高残高の50%か、$129,210の高い方が課せられ、またこの罰金は未報告機関の各年度の累計が加算されます。
仮想通貨の場合は一番高い時価対比の罰金が科せられるため、値動きが大きかった場合、年度の最高残高と年末残高が大きく乖離するリスクがあります。
仮想通貨取引業者(ブローカー)のIRSへの報告義務
これはインフラ政策予算案に盛り込まれた内容です。これは、仮想通貨取引業者(ブローカー)のIRSへの報告義務の拡大を求めるもので、「ブローカー」の定義が大きく広げられています。
具体的には、このブローカーの定義にノード、マイナー、開発者、ウォレット業者が含まれており、これらすべてにKYCの義務が課せられる可能性があります。
3.2 今後の懸念材料
こういったKYC済みの仮想通貨取引の特定を進めることで、不備を起こす業者の取締や報告義務を怠る個人の特定を進めていると考えられます。
ただその一方で、KYCの徹底を進めることで仮想通貨事業を営むことそのものがリスクになる可能性も否定できません。
また、証券法の範囲ではコモディティ認定(≒有価証券ではない)されていたビットコイン(BTC)ですら、KYCの徹底からは逃れられないという側面もあります。
れらの法案はまだ決議されておらず、どう修正されるかは不透明ですが、すべての仮想通貨がKYCからは逃れることができないという点で、仮想通貨業界に大きな影響を及ぼすと考えられます。
次の記事では、米国規制の論点の残り2つ「制度的リスク」と「ランサムウェア」について触れています。ぜひご覧ください!
なお、仮想通貨の損益通算ツール「クリプタクト」が運営している当ブログでは、仮想通貨関連の最新情報を含むさまざまな記事を定期的に公開しています。最新情報が知りたい方は、クリプタクトに登録すると受け取れるメルマガを登録したり公式Twitterアカウントをフォローしたりしてみてください。