2021.11.01|グローバル仮想通貨規制を徹底解説③(米国規制後編・その他)

仮想通貨規制/crypto regulation

今月に入り、先物ETFの後押しもあり、ビットコイン(BTC)が史上最高値を更新するなど、仮想通貨(暗号資産)業界が盛り上がりを見せています。

その一方で、時価総額が2.5兆ドルになった仮想通貨への規制は避けられません。これまでなかった勢いで各国が規制の導入を進めてる中で、規制との共存、規制に見合った成長が今後のカギとなります。

ジャーナルでは、こういったグローバル仮想通貨規制について3本の記事でシリーズ化してまとめています。このシリーズでは、
「中国規制のこれまでの一連の経緯」
「米国の規制の論点」
「他国の規制の状況」
について詳しく説明していきます。

シリーズ3作目の今作では、2作目でも触れた米国規制について、2作目では触れなかった論点である「制度的リスク」と「ランサムウェア」、そして他国の状況などについて説明していきます。

1作目と2作目は、以下から見ることができます。

なお、このシリーズの内容は弊社代表のアミンが先日のビットコイナー反省会ライブで説明した内容が基になっています。動画も上がっているのでそちらもぜひご覧ください!


1. 米国規制の概要

中国では事実上仮想通貨に関する規制が限界に達しました。その一方で米国における規制はどうなっているのでしょうか。

米国では、仮想通貨の時価総額の急増とそれによる規制の必然性から、今年に入ったあたりから仮想通貨規制の議論が活発に行われるようになっています。

米国における仮想通貨規制について、規制当局の着目点は主に以下の4つの分野にあると考えられています。

米国規制の論点 1. 証券法:有価証券に該当するか?
2. 報告義務:KYC徹底による匿名性の排除
3. 制度的リスク:ステーブルコインの脅威
4. ランサムウェア:仮想通貨の闇

これら4つの論点のうち、本記事では「制度的リスク」「ランサムウェア」の説明を行います。


2. 制度的リスク(ステーブルコインの脅威)

3つ目の論点は制度的リスクです。

これは、米ボストン連銀のローゼングレン総裁が、2021年6月にステーブルコインであるテザー(USDT)を金融システム安定性に対するリスクとみなしたことが話題になりました。

なぜステーブルコインの存在が制度的リスクにつながるのかを紐解いていきましょう。


2.1 そもそもステーブルコインとは?

ステーブルコインは、法定通貨(テザーの場合米ドル)とペッグした仮想通貨であり、その性質上価格が非常に安定しやすいという特徴があります。

ドルに紐づけられたステーブルコインで代表的なものとしては、テザー(USDT)USDコイン(USDC)があります。また同時に肝となるのが、顧客の米ドル返還請求に応えられるかどうか、つまり換金性が高いかどうかです。


2.2 本質的にはMMFと同等という見解

SECのゲンスラー委員長が先日、テザーやUSDコインなどのステーブルコインが本質的にMMFと同等であるという見解を示しました。

MMFとは
Money Market Fundの略。米ドル(現金)のほかに、米短期国債や国内外の公社債やコマーシャルペーパーなどの短期(比較的換金しやすい)金融資産を投資対象とする投資信託のこと。換金性は高いが即座に換金できない資産も多く含まれている。

ステーブルコインが本質的にMMFと同等のものであるとするならば、MMF同様に換金性が高い資産でリザーブを行う必要があります。

ここでテザーのリザーブの内訳に注目してみましょう。

21年8月に、テザー社が6月末時点におけるリザーブの内訳を公開しました。それを見てみると現預金の割合は小さく、コマーシャルペーパーや社債などが多くを占めていることが分かります。

テザーの資産内訳

この点はMMFと類似していますが、テザーはMMFと比較して開示や監督が限定的であったり不十分であったりすることや、CPの格付けもMMFのそれほど高くないため、これらの資産の信頼性はMMFほど担保されていません。

となると、ステーブルコインが今後普及し多くの人が保持するようになると、それに伴い償還リスクや、元本回収リスクが大きくなることが分かります 。

実際に、ステーブルコインの利率の高さも相まって、米国内で仮想通貨に関心のある人が積極的にステーブルコインを購入するというケースも多く見られます。

MMFの過去を振り返ると、リーマンショック危機の際に多くの顧客がMMFから米ドルの返還を求めたにもかかわらず、米国債の価格下落などが要因となりMMFが元本割れし、MMFそのものがリスク資産化した例があります。

MMFは金融制度やシステムの下支えをする存在であり、証券会社や銀行も資金をプールしたり、資金繰りの短期運用をMMF経由で行っているので、MMFがリスクにさらされること自体が制度的なリスクとなります。

本来規制が非常に厳しく信頼度が高いMMFでさえリスク資産化した歴史を踏まえると、MMFより規制が緩く、もとより償還リスクが高いステーブルコインの存在自体が、大きな制度的リスクであるという考え方について理解できます。


2.3 進行中の調査・捜査

上記の問題点を抱えるステーブルコインについて、いくつかの調査・捜査が進行中です。


金融安定監督評議会(FSOC)調査(2021年9月~)

今年の9月にFSOCがステーブルコインの調査を開始しました。この調査では、ステーブルコインの存在が制度的リスクに該当するかどうかが焦点になっています。

仮に制度的リスクであると判断された場合、新たなそして厳格な規制が適用されることになります。ただしこの調査はまだ始まったばかりで、結果が出るまでには時間を要すると見られています。


イエレン財務長官、ゲンスラー委員長、パウエル議長等のワーキンググループ

FSOC調査と対照的に近日中に結果が出てきそうなのが、バイデン政権が作った規制当局のトップが揃ったワーキンググループです。

最初のミーティングは非公開でしたが、10月に入ってから、ステーブルコインに対して、銀行としての登録を求めるなど、銀行並みの規制を課すことを検討していると報じられました。

https://www.reuters.com/business/finance/biden-administration-considering-regulating-stablecoin-issuers-banks-wsj-2021-10-01/

ステーブルコインが米国の銀行法の管轄下になってしまえば、テザーが(例えば体制や組織、能力の側面において)運営を行うことは非常に困難になります。

ワーキンググループの内容は非公開なのであくまでも報道ベースになりますが、これが仮に事実であれば、ステーブルコインを用いた取引が出来なくなるなど、仮想通貨業界全体に大きな影響を及ぼす可能性は非常に大きいと言えます。


SECのテザーへの犯罪調査の可能性

SECが、テザー社についての情報開示請求を拒否したことが明らかになりました。

米メディアThe New RepublicのJacob Silverman記者は、8月にSECにTether社についての情報開示請求を要求しましたが、それに対してSECは

We are withholding records that may be responsible to your request (中略). This exemption protects from disclosure records compiled for low enforcement purposes, the release of which could reasonably be expected to interfere with enforcement activities.

「私たちは、あなたの開示請求に該当する可能性のある記録について、公開を差し控える。法執行目的で集められた記録を正式に発表する前に開示してしまうと、法執行活動が妨げられてしまう可能性がある。」

上記ツイートより

と回答。この回答が、SECがテザー社に対して調査を行っていることを示唆しているのではないかと話題になっています。

またSECの調査との関連性は明確ではありませんが、21年10月にCFTC(米商品先物取引委員会)が、テザー社に対して4100万ドルの罰金の支払いを以て和解する命令を下したことが明らかになりました。

https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/8450-21

このように、テザー社に対しての犯罪調査について、リスクが顕在化してきていることが分かります。


2.4 ドルとの競合

ゲンスラー委員長は9月に行われたライブで、仮想通貨規制の方向性について言及し、ステーブルコインについて言及しました。その中で、

「仮想通貨はかつては革新的な技術だったが市場全体が投機的なカジノに劣化した」

「カジノのポーカーチップがステーブルコインである」

と明確に、ステーブルコインについての批判を行いました。これらの発言からステーブルコインが規制当局側から歓迎されていないことが推測できます。

さらにFED(連邦準備制度)のデジタルドル構想についても着目する必要があります。近日発表される予定のFEDの次世代マネー報告書の中で、中央銀行によるデジタルドル発行についての方向性がある程度明確になると見られています。

仮にデジタルドルの発行が検討されるとなると、ステーブルコインの存在そのものが脅威とみなされる可能性はさらに高まるでしょう。


3. ランサムウェア(仮想通貨の闇)

4つ目の論点はランサムウェアです。仮想通貨の根深い負の側面の一つといえるでしょう。

ランサムウェアとは、マルウェア(悪意あるソフトウェアやコード)の一種で、これに感染したコンピュータは利用者のシステムへのアクセスを制限し、これを解除するために被害者がマルウェア作成者に身代金を支払う必要があります。

この身代金の支払い方法として、仮想通貨(主にBTC)が使われており、結果として仮想通貨の存在がランサムウェア攻撃を招いていることが大きな問題となっています。

以下ランサムウェアに関する規制についての要点について説明していきます。またランサムウェアに関する規制は、財務省主導で動いています。


3.1 社会インフラが狙われている

近年、ランサムウェアの被害は拡大傾向にあり、今年に入り社会インフラを揺るがすような事件がいくつか発生しています。

21年5月に米国最大の石油パイプライン「コロニアル・パイプライン」がランサムウェア攻撃を受けて、5日間にわたり操業停止に追い込まれたことが記憶に新しいのではないでしょうか。この一件では、440万ドル相当のBTCを身代金として支払ったことが話題になりました。

また、同じく5月に世界最大級の食肉加工メーカー「JBS」がランサムウェア攻撃を受けて、システムがダウン、食肉の供給が制限され卸売価格が上昇するといった事態にまで発展しました。この一件では身代金として1100万ドル相当のBTCを支払ったことが明らかになっています。

また、近年のランサムウェアの動向について、以下2つのグラフをご覧ください。上のグラフは、 ランサムウェア関連のSARsおよび取引件数で下のグラフはそれらによる (想定)被害金額 です。(どちらもFinantial Trend Analysisより引用)

これらを見ても分かるように、ランサムウェアによる被害は件数、金額ともに年々増加傾向にあり、近年は特にその特徴が顕著です。


3.2 初めての経済制裁

今年9月に、米財務省が仮想通貨取引所のSuexがランサムウェアの決済に果たしている役割に対し経済制裁を科すことが決まりました。

この経済措置は、仮想通貨取引所に対する初めてのもので、米国人が同社と取引することが禁じられるなど、非常に厳格なものになっています。財務省によると、同社の取引の40%以上が犯罪行為に関連しているとのことです。


3.3 議会等で社会問題化

今年に入ってからのインフラに対する複数のランサムウェア攻撃が引き金となり、議会やメディアでもランサムウェア攻撃や仮想通貨が社会問題化しています。

一般的に、社会問題を防ぐのか、イノベーションを重視するのかという議論になると、社会問題の方が重要視されることが多いです。

議会で仮想通貨を後押ししたい議員が一定数いるとしても、結果として社会問題を引き起こしてしまうようなイノベーションを保護しようという主張がしづらい状況になっています。

メディアに関しても、先日、米国メディアのウォールストリートジャーナルが、「ランサムウェアによる初の死亡事例」をwebのトップ記事で取り上げたことが話題になりました。

A Hospital Hit by Hackers, a Baby in Distress: The Case of the First Alleged Ransomware Death

この記事で取り上げられたのは、病院に対するランサムウェア攻撃により心臓モニターが機能せず出産時の異常に病院が気づくことができず、赤ん坊が死亡した事件です。この事件では、結果として親側が病院を提訴していますが、記事の見出しはランサムウェアや仮想通貨に対する脅威を煽るものでした。

ランサムウェアが社会問題化したことで、仮想通貨に対する風向きが一層強まっていることが伝わってきます。


4. その他

ここまでは中国と米国の仮想通貨規制に触れてきましたが、他国の規制の状況はどうなっているのでしょうか。代表的な動きについて追っていきましょう。


4.1 欧州・イギリスのトラベルルール適用

欧州やイギリスでは、仮想通貨に対するトラベルルール(仮想通貨交換業者間での顧客情報の共有に関するガイドライン)の適用が議論され始めています。この議論は21年7月から始まり、決議まで1~2年かかると見られています。

仮にこのトラベルルールが決議されると、すべての送金に対して報告義務が課さられることになります。

また匿名ウォレットについても、匿名の銀行口座と同様にその使用が禁止されることになります。


4.2 韓国の登録制度導入

韓国は、国内の仮想通貨取引所に対して、9月24日までのKoFIU(韓国金融庁)への登録と、国内銀行との業務提携を必須としました。これができたのは国内大手の仮想通貨取引所4社のみであり、その他の仮想通貨取引所は廃業する見込みになっています。(ただし大手4社の国内シェアはもともと9割以上)


4.3 数少ない前向きな兆し

これまでは規制の話題ということもありネガティブな話が続いていましたが、最後に米国内のポジティブな話題を紹介したい思います。


ワイオミング州のルミス議員

米国内でも仮想通貨に対して前向きな議員がいます。その代表的な人物が、ワイオミング州の共和党上院議員であるシンシア・ルミス議員です。彼女はBTCへの投資を推奨しており、個人でも21年8月に最大10万ドル相当のBTCを購入しています。

またワイオミング州は仮想通貨に対しフレンドリーな環境を提供しており、複数の仮想通貨インフルエンサーや企業もワイオミング州を拠点に置いています。このようなことを踏まえると、仮に米国全体の規制が厳しくなったとしても、ワイオミング州が特区のような形態をとり多少なりとも規制が緩和されるシナリオも考えられます。


米国の中国への対抗姿勢(イノベーションの維持)

米国の中国に対する対抗姿勢を踏まえると、米国は仮想通貨を全面禁止した中国のようにはならない(≒全面禁止はしない)可能性は高いです。実際ゲンスラー委員長やパウエル議長も仮想通貨の全面禁止については否定しています。

ただし、仮想通貨が規制強化の方向に向かっていることは事実で、規制に対応できる人・事業者のみに発展の余地があるという状況は継続するものと考えられます。

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