執筆:西村 麻美


 


 

基本情報


 

企業概要

1967年創業。北海道札幌市本拠地の全国トップの家具・インテリア製造小売り チェーン。日本国内553店舗、台湾30店舗、中国34店舗、米国2店舗を展開。

店舗は「ニトリ」と「ニトリ デコホーム」の二種類あり、「ニトリ」店舗では大型 家具から生活雑貨まで取り扱い、「ニトリ デコホーム」では生活雑貨を中心に取り 扱い、デパート、ショッピング・モール、スーパーの一角に出店している。 学習机は年間7万7千台を販売し、全国シェアで日本一


 

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株式関連情報

株価21,285円(2020/7/2)
発行済株式数114,443,496株(うち自己株式1,787,317株)
上場市場東証一部
時価総額2兆3,987億円


 

従業員数

14,337名(連結、2020年2月時点) 
他に平均臨時雇用者15,599人

財務データ

 2016/22017/22018/22019/22020/2
売上高(百万円)458,140512,958572,060608,131642,273
営業利益(百万円)73,03985,77693,378100,779107,478
当期利益(百万円)46,96959,99964,21968,18071,395
EPS(円)421.40536.23571.63606.03634.03
純資産(百万円)331,968394,778441,668500,192560,861
BPS(円)2,981.273,530.513,938.894,452.994,984.29
総資産(百万円)414,541487,814550,507619,286683,247

33期連続で当期純利益は過去最高益を更新。


 

ビジネスモデル


 

ニトリのビジネスモデル

ニトリのビジネスモデルは家具業界では珍しく製造小売業(SPA)のノウハウを取り入れ、「海外現在料の仕入れ → 現地生産 → 輸入 →店舗販売 →商品配送」までほぼグループ直営で行う垂直統合型のサプライチェーンを競争力の源とする製造物流小売業である。

インドネシアとベトナムに自社工場を持っている。住空間をトータルでコーディネートする「ホームファニシング」という業態を国内で初めて確立した企業としても知られる。

また、マクロ経済の状況により価格を変える戦略を取る。2008年は原油価格高騰で多くの企業が値上げに踏み切る中、リーマンショック後の不況時こそ顧客に還元の考え方から2012年までに5,000品目以上の商品を平均20%以上の値下げをし、増収増益を続けた。

近年では一般消費者向けの小売販売の他にリフォーム事業やオフィスや施設の提案を行う法人営業も手掛けている


 

垂直統合型のサプライチェーン

垂直統合型のサプライチェーン

(出典)株式会社ニトリホールディングス統合報告書2020年より

ニトリの垂直統合型のサプライチェーンは上図のようになる。

商品の企画から製造、物流、販売までを自社で行う事により、コストパフォーマンス、裁量範囲拡大による独自のマーケティング力、川上と川下の市場掌握による情報収集力といった競争優位性を構築している。

日本企業でSPA型で成功している「ユニクロ」、「GU」を手掛けるファースト・リテイリング、「MUJI」を手掛ける良品計画は商品企画から製造・物流・販売までを行 っているが、ニトリの場合は物流まで自前で行なっており、世界でも珍しい企業と言えるだろう。

ニトリ創業者の似鳥昭雄氏はIKEAのビジネス・モデルを参考にしたと言っているが、IKEAは自社工場を持たず世界50か国で1,250の協力工場を持ち最適生産を実現している。

また、物流に関してはIKEAは物流センターは自前で持つが複数の物流業者を使い物流コストの削減を図っている。

ニトリは一貫物流による在庫管理を可能にしている独自の物流システム、自前の物流体制により、商品在庫の効率的な活用を進めており、ニトリの競争力の源泉の一つであると言える。

自前の物流システムを持つことにより、近年の配送コスト増の影響を受けていない

また、このサプライチェーンで蓄積した情報資産を活用して各工程で抱える制約条件を解消し、ノウハウを積み重ねており、これらもニトリの競争力の源と言えるだろう。


 

中国事業

国内事業では同じような価格帯のIKEAに圧勝しているニトリだが、中国での事業展開 は上手く行っているとは言えない。

ニトリが中国に進出したのは2006年だが、サプライチェーンの構築に長い時間を費やし、実店舗を出店したのは2014年であった。IKEAは1998年に中国に進出し、その当時の中国の経済状況に合わせてヨーローッパより50%も価格を下げて商品を提供するなどの戦略により中国市場でのポジションを確立した。

後に中国では現地の家具ブランドが出てくるようになり、ECで売上を伸ばしてきてい る。ニトリは中国国内に37店舗を持っているが、ECモールに出店などはない。

IKEAも現地の家具ブランドが次々に出てきて売上が低下していたが、戦略を転換して中国にデジタル・イノベーション・センターを設立し、ECモールに出店している。

また、ニトリは中国市場ではブランド名が「似鳥」「NITORI」と統一されていないために認知しづらく、低価格のみでデザイン・コンセプトが不明瞭であるとの評価が多いようである。

また、中国市場でニトリは出店効率を優先してショッピング・モールにインテリア雑貨のテナントを数多く出店してきた。

しかし、この分野には格安雑貨で人気の「名創優品(MINISO)」など圧倒的なブランド力を誇る強敵が多く、苦しい戦いを強いられているようだ。

中国市場に関しては2032年までに1,000店の目標を掲げているが、昨今の中国の不安定な情勢を考えると実店舗のみを増やす事はリスクが高いと感じる。ECモールに出店する事がニトリの事業戦略に合わないという事であれば中国事業を撤退し、別の国や地域に進出する事も選択肢の一つに思える。


 

通販事業

ニトリは2016年2月期に自社通販サイト「ニトリネット」を開始し、初年度の売上は170億円だったが、2020年2月期には443億円まで拡大している。オンラインとオフラインの融合を目指し2020年2月期には公式スマートフォンアプリを刷新した。

画像検索機能を追加し、また店内の商品位置も確認できる機能も追加した。また、アプリ会員限定で商品購入時にポイントを追加付与するサービスを始めた。


 

財務状況と経営指標


 

2021年2月期第一四半期決算

ニトリは6月末に2021年2月期の第1四半期(3~5月)決算を発表した。緊急事態 宣言中に110店舗休業したにもかかわらず売上は前年同期比3.9%増の1,737億8,000万 円、営業利益は前年同期比22.3%増の372億1,600万円、経常利益は前年同期比21.6% 増の373億6,100万円、四半期純利益は前年同期比25.4%増の255億1,900万円だっ た。

休業店舗が多かったにも関わらず増収増益できた要因は巣ごもり需要から収納整理用品やキッチン・ダイニング用品、ホームオフィス家具の売上が大きく伸びた。為替予約や原価改善により売上総利益が改善した事、また広告媒体をWeb媒体に転換した事などにより営業利益率が324bpsも改善した。


 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2018/22019/22020/2
営業キャッシュフロー76,84081,66499,337
投資キャッシュフロー▲82,751▲30,424▲44,486
財務キャッシュフロー655▲11,340▲13,862
現金及び現金同等物期末残高60,923100,053140,791

営業キャッシュ・フローは、当期利益の伸びにより拡大し続けている

投資キャッシュフローで2018年2月期のマイナスが大きかったのは土地の取得と投資有価証券の取得による。

財務キャッシュフローで2018年2月期にプラスだったのは長期借入金による収入とストックオプションの行使による収入を合わせた金額が配当金の支払金額より大きかった事による。


 

有利子負債、設備投資額、減価償却費

ニトリの過去3年間の有利子負債、設備投資額、減価償却費は以下である。

 2018/22019/22020/2
有利子負債(百万円)108,800119,000122,300
設備投資(百万円)64,10032,20023,100
減価償却費(百万円)11,30012,30014,500

2021年2月期の設備投資見込額は250億円、減価償却費は160億円を予定している。


 

主な経営指標

 2018/22019/22020/2
自己資本比率80.1%80.7%82.0%
配当性向15.9%19.2%17.0%
営業利益率16.32%16.57%16.73%
総資産回転率1.0回1.0回0.9回
EBITDA(百万円)106,408114,997124,039
ROA18.3%17.6%16.8%
ROE15.4%14.5%13.5%
ROIC14.3%13.4%12.8%


 

KPI管理

ニトリ創始者の似鳥氏は徹底した経営指標管理で知られる。22のKPIは総売上増加率や経常利益増加率、商品回転率、坪あたり営業利益など様々な指標があり、それぞれに目標値を設定して、毎期ごとにクリアする事を課題としている。22の経営指標は決算期ごとに「勝敗」をつけ、何勝何敗だったかを決算説明会資料中で開示している。

厳しいKPI管理と卓越したビジネスモデルの両方が33期連続最高益更新を支えているのは間違いないだろう。


 

今後の事業計画


 

出店計画

ニトリは中期経営計画として2022年に1,000店舗、2032年に3,000店舗という目標を掲げている。2021年2月期は日本国内で51店舗、台湾で6店舗、中国で2店舗、米国で1店舗出店の計画である。


 

アパレル進出

ニトリは2019年3月に東京本部内に新会社のNプラスを設立し、アパレル事業にも進出した。

婦人衣料専門店「N+」は2020年5月末時点で日本国内に4店舗ある。価格帯はユニクロより上で無印良品と同じ位の中間価格帯の位置づけである。商品は他社から仕入れている状態だが、将来的にはユニクロのようなSPA化を目指している。

アパレル市場は近年競争激化がすすみ、百貨店アパレルも苦戦しているが、ファッションセンターしまむらのような低価格帯アパレルも業績不振が続いている。N+がどうなるのか注目である。

競争が激しいアパレルにわざわざ進出する動機がはっきりしないが、日本国内の郊外型「ニトリ」店舗は既に飽和状態になってきていると感じていて、家具ビジネスでのSPAの成功をアパレルでも生かしたいのかもしれない。


 

投資判断

株価は3月半ばに一旦下落したものの、すぐに回復して上昇しているが、予想PERが 32.77倍、EV/EBITDAが17.9倍、PBRが4.25倍と成長企業としてのバリュエーションに割高感はない。リスク要因として考えられるのは中国事業とアパレル事業である。

中国事業に関してはコロナ第一波収束後に旗艦店で売上が伸びたとの事なので、回復 基調にあるようだ。アパレル事業に関しては現時点では未知数である。好調な国内の 家具事業からは十分な利益成長が期待できるだろう。


 

プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


 

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