執筆:西村 麻美


 


 

基本情報


 

 

企業概要

日本電信電話株式会社(NTT)は日本の通信業界のトップ企業。1984年にNTT法により通信事業を主体とする企業集団であるNTTグループの持株会社として設立した特殊会社。

株式関連情報

株価2,491円(2020/6/25)
発行済株式数3,900,788,940株(うち自己株式265,592,712株)
上場市場東証一部
時価総額9兆552億円
配当利回り4%


 

従業員数

319,050名 (2020年3月31日時点)

財務データ

 2016/32017/32018/32019/32020/3
売上高(億円)115,409113,910117,821118,798118,994
営業利益(億円)13,48115,39716,41016,93815,621
当期利益(億円)7,3778,0018,9788,5458,553
EPS(円)350.34390.94449.86220.13231.21
純資産(億円)112,400115,077120,325118,047114,626
BPS(円)4,214.324,491.734,591.582,416.012,492.06

※ 2020年1月1日付で普通株式1株につき2株の割合で株式分割を実施。前連結会計年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定してEPS、BPSを算定。

過去5年の営業利益、当期利益のCAGR(年平均成長率)はともに3.8%だった。


 

 

事業別の概要


 

事業セグメント別営業利益

(単位:億円)2018/32019/32020/3
移動通信事業9,87010,1368,547
地域通信事業3,5163,6073,883
長距離・国際通信事業9061,0011,036
データ通信事業1,2321,4771,309
その他事業987856909


 

過去三年間の事業セグメント別営業利益は上記の通りであるが、NTTグループの一番の稼ぎ手はNTTドコモが手掛ける移動通信事業である。2020年3月期の移動通信事業の営業利益の低下は政府による携帯電話料金値下げの圧力に応じた結果であり、NTTドコモだけでなく、他社も同様に値下げをしている。


 

移動通信事業

事業内容 
・NTTドコモが提供する通信事業、スマートライフ事業で主要サービスは携帯 
・電話サービス、動画配信・音楽配信・電子書籍サービスなどのdマーケットを通じたサービス、金融・決済サービスなど。

上記のようにNTTドコモは携帯電話料金の値下げにより2020年3月期は5年ぶりの営業減益になった。

値下げによる減益はあったものの、携帯電話契約数、スマホ・タブレット利用数、ドコモ光契約数は増加した。NTTドコモのマーケット・シェアは約44%(2019年11月時点)と推定され、移動通信事業のマーケット・リーダーとしての地位は不変である。

ドコモの強さはインフラ整備に積極的で回線速度が速い事、MVNO(仮想移動体通信事業者:他社から回線サービスを借り受け料金の安い格安SIMを提供)を早くから取り込んでいる事と言えるだろう。

また、コンテンツ提供や金融・決済事業などのスマートライフ事業については「dポイントクラブ」会員数7,500万突破、金融・決済取扱高が5兆3,200億円になるなど順調に成長している。

2019年7月に子会社化したNTTぷららで発生する費用の増加と金融・決済サービスの収入に連動する費用の増加により増収減益になった。 
(営業収益4兆6,513億円、営業利益8,457億円)


 

地域通信事業

事業内容 
NTT東日本やNTT西日本が提供するフレッツ光などのサービスやひかり電話などのサービスであるが、契約数、営業利益ともには一桁増であった。

(営業収益3兆799億円、営業利益3,883億円)


 

長距離・国際通信事業

事業内容 
NTTコミュニケーションズが提供する国内電気通信事業における県間通信サービス、国際通信事業、ソリューション事業、およびそれに関連する事業などで、主要サービスはクラウドサービス、データセンターサービスおよびクラウド移行支援サービスなど。

2020年3月期はネットワーク、セキュリティ等を組み合わせたICTソリューションの提供力を強化したほか、クラウドサービスやITアウトソーシングといった成長分野でのサービス提供力の強化を図り、減収増益だった。 
(営業収益2兆2,058億円、営業利益1,036億円)


 

データ通信事業

事業内容 
NTTデータが提供する国内および海外におけるネットワークシステムサービス、システムインテグレーションなどで主要サービスはERPソリューションやICTアウトソーシングなど。

2020年3月期はグローバルでのデジタルトランスフォーメーション等の加速や、ニーズの多様化・高度化に 対応するため、グローバル市場でビジネス拡大を図るとともに、市場の変化に対応したデジタル化の提案、システムインテグレーションなどの多様なITサービスの拡大と安定的な提供に取り組んだ結果増収減益だった。 
(営業収益2兆2,668億円、営業利益1309億円)

その他の事業

事業内容 
その他の事業は不動産事業、金融事業、建築・電力事業、システム開発事業、先端技術開発事業などで、2020年3月期は増収増益だった。

(営業収益1兆6,017億円、営業利益909億円)


 

 

中期経営戦略

2018年11月に発表した中期経営戦略「Your Value Partner 2025」に基づき、以下の施策を推進している。

中期経営戦略

(出典:NTTグループ中期経営戦略『Your Value Partner 2025』より)


 

B2B2Xモデル

NTTグループは、情報のデジタル化、IoT、AIといった社会的・技術的な潮流を活かしつつ、様々な分野のサービス提供者である「センターB」のデジタルトランスフォーメーションをサポートしていくことで、B2B2Xモデルをさらに加速させ、エンドユーザ(X)に付加価値を提供している。2021年度のプロジェクト数目標は100、2023年度の売上目標は6,000億円としている。

2019年度の主なB2B2X案件は、北海道大学、北海道岩見沢市とスマートアグリシティの実現に向けた産官学連携協定締結(2019年6月)、千葉市と未来の街作りに向けた包括連携協定締結(2019年7月)、さっぽろ連携中枢都市圏12市町村とまちづくりパートナー協定締結(2019年7月)、東京メトロと混雑緩和・円滑な輸送実現に向けた協業開始(2019年7月)など。

2020年5月時点でのB2B2Xプロジェクト数は66。

プロジェクトにおいてトヨタ、三菱商事、マイクロソフト等との連携を推進しており、スマートシティを展開している。


 

5Gサービスの展開

5Gサービスによりスポーツの新しい観戦スタイルの提供、建設機械等の遠隔操作による人手不足の解消、遠隔医療による医療格差解消、都市映像のAI解析による防災・減災を目指しており、2023年度末までに5Gインフラ構築などの投資額は1兆円を予定している。

また、5Gにおけるパートナー企業は約3,000社。2020年3月より5G商用サービスを開始し、2020年度末までに500都市で展開を予定している。


 

その他の施策

新事業としてロケーションビジネスの取り組みを開始し、HEREやゼンリンへ出資した。 
健康経営支援サービス「Genovision」の提供を開始。


 

中期財務目標

NTTグループは財務目標として5つの目標をあげている。

①2017年度のEPS 212円から2023年度に50%増の320円を目指す。(EPSは2020年1月の1対2の株式分割を考慮して計算) 
②2023年度の海外売上高250億USD、海外営業利益率7%を目指す。 
③対2017年度のコストで2023年度に8,000億円削減を目指す。 
④2023年度にROIC 8%を目指す。 
⑤2021年度に国内ネットワーク事業(NTTコミュニケーションズのデータセンターを除く)の設備投資金額を売上の13.5%以下を目指す。 


 

②の海外売上高、海外営業利益率は2020年3月期は195億ドル、2.4%だった。 あと三年で売上高を28%増する事は十分可能だと思われる。営業利益率を3倍弱に高めるためにどのような施策を取るかは分からないが海外ビジネスの不採算部門の売却などが考えられる。

③のコスト削減に関してはグループ全体で3年間で8,000億円の削減という事であれば可能であると思われる。

④のROICは2020年3月期時点で6.6%だった。これを3年間で8%に高めるのは利益の増大、固定資産の縮小により十分実現可能であると思われる。

⑤は2020年3月期のグループ全体での設備投資金額は売上高の15%であったが、NTTコミュニケーションズのデータセンターを除けば十分可能なレベルに思える。

問題は①のEPSの50%増である。2020年3月期のEPSは231.21円だった。EPSを320円まで上げるためには、当期利益をあと3年で38%拡大するか、あるいは大規模な自社株買いの実施、または利益拡大と自社株買いの両方により実現するのだろう。


 

EPS320円の達成

自社株買いに関しては、NTTグループは1999年から2019年9月までに累計約4兆円の自社株買いを実施しており、2011年からは毎年実施している。2020年3月期には約5,000億円、約1億株を取得した。

利益成長のみでEPS320円を達成するのは不可能に思えるので、大規模な自社株買いを3年間にわたり実施する確率は極めて高く、自社株買いの原資とするために資産流動化を行うと推測する。アニュアルレポート2019の8ページで澤田社長が述べていたように不動産やデータセンター等の資産流動化に前向きである事は間違いないと思われる。

このように推測するのは2020年2月にNTTとリース会社大手の東京センチュリーが資本業務提携した事にある。東京センチュリーの総額約938億円の第三者割当増資のうち700億円をNTTが引き受け、第三位の株主となった。

NTTはグループのリース事業を分社化して、両社とNTTファイナンスが出資する共同運営の新会社NTT・TCリース株式会社を設立した。 この経緯を考えるとNTTは資産流動化のパートナーとして東京センチュリーと資本業務提携し、新会社を設立したと考えると自然である。


 

資産流動化

NTTグループは全国に電話局、通信網、データセンターを所有している。2020年3月期の決算短信によると有形固定資産が9兆円、投資不動産が1兆円とあるので、これら合わせて10兆円を証券化するのではと推測する。

これら資産をNTTはSPC(特別目的会社)に売却し、売却代金を受け取り、リース料金を支払い資産を使用していくようになると推測する。これによりNTTのバランスシートはスリム化し、自社株買いの原資として使用する事ができる。

2020年3月期末のNTTの総資産は23兆円だったが、10兆円分の資産をオフバランス化すると仮定すると総資産が13兆円になる。かなりの経営効率の改善が見込まれ、資産証券化により得るキャッシュで大規模な自社株買いは可能になるだろう。

もちろんこれらは推測の域が出ないものであり、最終的には何らアクションが行われない可能性もある。

しかし、①アニュアルレポートで資産流動化について言及されていること、②東京センチュリーと資本業務提携を行ったこと、③EPS320円のコミットのために自社株買い原資を確保する必要があること、などを考えると比較的可能性のある話だと考える。


 

 

財務状況と経営指標


 

 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:億円)2018/32019/32020/3
営業キャッシュフロー25,41324,06229,952
投資キャッシュフロー▲17,462▲17,741▲18,527
財務キャッシュフロー7,9516,32011,425
フリーキャッシュフロー7,9516,32011,425


 

 

主な経営指標

 2018/32019/32020/3
EPS212円220円231円
海外売上高(百万ドル)18,35418,91119,454
海外営業利益率3.1%3.2%2.4%
コスト削減(億円)2,2005,000
ROIC7.4%7.4 %6.6%
Capex to Sales(国内ネットワーク事業)13.7%13.9%13.8%
1株当たり配当金75円90円95円
配当性向32.9%40.9%41.1%
ROE9.3%9.3%
ROA7.6%6.9%


 

 

投資判断

2023年度にEPS320円を達成すると考えると現在の株価2491円ではPERは7.8倍である。

NTTの事業は通信インフラなので、経済悪化により業績が悪化するとは思えない。例え業績が悪化したとしても資産流動化によりキャッシュを作り、大胆な自社株買いを行う事によりEPS320円を達成する事は可能である。

また、現在の配当利回り4%を考えるとキャピタル・ゲインと高配当の両方を得る事ができ、安心して買いたい銘柄である。


 

プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


 

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