2020.10.22|銘柄ピックアップ:ワコム(6727)業種:電気機器

銘柄ピックアップワコム / pick up Wacom

執筆:西村 麻美



基本情報


企業概要

1983年設立。埼玉県加須市に本拠地を置く描画用のペン入力タブレット、デジタルペン、デジタルインク(デジタルの手描きデータ)などの電子機器開発事業を行う企業。2003年ジャスダック上場。2005年東証一部へ市場変更。


株式関連情報

株価667円(2020/10/9)
発行済株式数166,546,400株(うち自己株式4,121,301株)
上場市場東証一部
時価総額1,083億円


従業員数

1,012名(2020年3月時点)


財務データ

2016/32017/32018/32019/32020/3
売上高(百万円)77,56871,31482,26389,49988,580
営業利益(百万円)3,664▲1,1713,5724,1525,567
当期利益(百万円)2,310▲5,5342,3623,8513,917
EPS(円)14.00▲33.9314.5523.7124.12
純資産(百万円)31,09621,35722,68825,42827,735
BPS(円)188.22 130.75139.45156.54170.75


ビジネスモデル


クリエイティブ・タブレットの世界的なリーダー

1983年の創業以来、世界初のコードレスのペンタブレットを開発して以降、デジタルペン技術を通じ「デジタルで描く、書く」体験を顧客に届けている。デザイナー、アニメーター、工業デザイナーなどプロのクリエーターからの支持により高いブランド力とシェアを誇っている。ペンタブレットでは世界シェア9割という圧倒的なシェアを誇り、全世界150以上の国と地域でワコムの製品は販売されている。日本、海外合わせて2,000以上の特許を保有しており、技術の流出や模倣を防止し、ニッチ市場で高いシェアを安定的に維持している。


事業構成

ワコムの事業構成は以下二つの事業から成り立つ。

① 自社ブランドでペンタブレット等を販売するブランド製品事業
② スマホ、タブレットメーカーなどの他社にペン技術をOEM提供するテクノロジーソリューション

① ブランド製品事業
クリエイティブソリューション用製品ではワコムブランドのペンタブレット、ディスプレイ、モバイルなどの製品は映像表現がHD(高精細)から4K、2Dから3D、VRまでと様々なラインナップを用意している。

ビジネスソリューション用には企業の文書管理システム、店頭でのクレジットカード署名用端末、金融機関での商品説明、契約用端末、ホテルでのチェックインシステム、役所での諸手続き窓口用入力機器、医療現場での電子カルテ用端末など幅広く使われている。

② テクノロジーソリューション - ペンタブレットで培ってきたデジタルペン(EMR:電磁誘導方式、アクティブES:アクティブ静電結合方式)やマルチタッ チ技術を、OEM提供
サムスンのGalaxy NoteシリーズにOEM提供してきた事で知られるが、Galaxy Noteシリーズが世界的なヒット商品となったためにサムスンへの依存度が高かった。(ピーク時には売上の7割程度)しかし、2016年にGalaxy 7の電池発火問題が起き生産、販売が中止されて以降はワコムのサムスン依存度は低下した。現在はサムスンの依存度は40%前後と推測される。

サムスン依存度の低下とともに他のPC、タブレットメーカーにペン技術の提供を増やして来た。ワコムのアクティブESのペン技術はレノボ、ファーウェイ、HP、東芝、富士通、ASUSなど、主要なPC、タブレットメーカーの採用されている。

また、グーグルの教育市場向けパソコンである「Pixel Book」やChromeブックにもワコムはペン技術を提供している。

マイクロソフトは自社でペン技術を持っているが、ワコムと協業してWindows10向けのBamboo inkを開発している。Bamboo Inkは、ワコムのアクティブ静電結合方式(AES)およびMicrosoft Penプロトコル(MPP)の2つのペン入力方式に対応しており、多くのWindowsデバイスで利用が可能である。


2021年3月期第一四半期

ワコムの2021年3月期第一四半期(4~6月)の決算は緊急事態宣言の巣籠需要で第一四半期における売上高、営業利益、四半期利益として過去最高を記録した。

売上高209億円(前年同期比22%増)
営業利益22億円(前年同期は▲3億円)
四半期利益15億円(前年同期は▲1億円)

ブランド製品事業はペンタブレット製品やディスプレイ製品のオンライン教育向け需要が強く、また、ディスプレイ製品のエントリーモデル新製品の需要が高くセグメント売上高が108億円と増収し、セグメント損益は黒字転換し、14億円となった。

テクノロジーソリューション事業はOEM提供先からのEMRテクノロジー(電磁誘導方式)他への需要増等により、セグメント売上高101億円、セグメント利益は17億円と増収増益となった。

売上増加及びプロダクトミックス改善等による粗利益増加、また営業自粛などによる販管費減少の結果、為替円高の影響(約▲2億円)、米国の対中追加関税の影響(約▲2億円)等を吸収して営業損益は25億円増加した。

ワコムは米国、ドイツ、中国、韓国、オーストラリア、シンガポール、台湾、インドに現地法人を持っているが、2021年3月期第一四半期の地域別売上は以下の通りである。テクノロジーソリューション事業の売上は日本に計上している。

2021年3月期1Q実績
日本11,878百万円
(うち、テクノロジーソリューション事業を除く) (1,757百万円)
米国2,941百万円
ドイツ2,304百万円
アジア・オセアニア3,793百万円
合計20,916百万円

テクノロジーソリューション事業を除くと、海外販売比率は83.72%であり、ワコムの業績は為替の影響を大きく受ける


教育市場への注力

これから注力して行きたい分野が教育市場であるとワコムの代表取締役社長の井出氏は公言している。既にこの分野ではベネッセ・コーポレーションの進研ゼミ小学講座にワコムのペンタブレットが数千台採用されている。

同じく通信教育大手のZ会とワコムは2020年10月に教育分野における「手書き x デジタル」の利用へ向けた包括的な業務提携をし、DX時代の顧客ニーズに応えた革新的な学習サービスの共同開発を進めていくと発表した。

また、新型コロナウィルスの蔓延で学校が休校になった時期に韓国や米国のメリーランド州の学校ではワコムのペンタブレットを使いオンラインで学習に利用された。

韓国ではYouTube Liveを活用したリアルタイムのオンライン授業が行われ、教師がPowerPointに授業内容をまとめ、黒板の代わりにワコムの液晶ペンタブレットを利用して教材(PPT資料)に直接書き込みながら授業を進めた。生徒はYouTubeにアクセスしてリアルタイムで先生と一緒に問題を解いたり、チャット機能で質問したりの授業スタイルだった。

米国メリーランド州ではコロナにより学校が閉鎖された時にオンラインでの反転学習にワコムの液晶ペンタブレットが利用された。反転学習とは事前にオンライン教材で個別に学習し、授業時間では質問に答え、個々の生徒に合わせた指導をする等という授業スタイルだが、その際にワコムの液晶ペンタブレットを使い、画面に直接書いた内容を共有、数式の展開や方程式の解説などを画面上に直接デジタルペンで書くなどホワイトボードよりも柔軟な使い方が好評だった。

教育市場用の既存の製品としてはシンティックという液晶ペンタブレットがある。パソコンに接続することにより、画面に手書きで文字や図を書き込める。画面を黒板のように使用することもでき学校に導入されるPCやプロジェクターと組み合わせて利用する事ができる。また書き込んだ内容のデータ保存やプリントアウトも可能である。

教育分野については日本国内では学校教育のデジタル化が追い風である。学校教育でのICT活用比率に関して、日本はOECD加盟国中最低である。文部科学省のGIGAスクール構想では令和5年までに小学校、中学校、高校で一人一台PC端末の支給のために補助金を支給する予定である。また、全国の学校内のLANの整備を予定している。  

市場調査会社のグローバル・インフォメーションによると、デジタル教育の全世界市場規模は、2020年の84億米ドル(約8,820億円)から、2025年には332億米ドル(3兆4,860億円)に拡大し、CAGR(年平均成長率)31.4%で成長すると予測している。

日本国内のみならず世界レベルでの教育市場のデジタル化はワコムにとり新たな成長ステージへの機会になると予想される。PCやプロジェクターに接続し、画面に直接書ける液晶ペンタブレットの機能の充実と優位性は多くの教育機関やオンライン学習で求められる製品になるだろう。


文具メーカーとの協業

教育市場の他にワコムが注力しているのはデジタル文具メーカーなどとの協業である。キングジムとの協業でデジタルノート「フリーノ」を開発し、2020年7月に発売した。また、2020年8月には三菱鉛筆との協業し、鉛筆の木軸を活用したデジタルペンを開発、販売した。これ以外にもデジタル文具を展開する文具メーカー向けにペンカートリッジを提供している。

海外の文具メーカー向けのデジタルペンのOEM供給はドイツで3社に提供している。高級万年筆メーカーで知られる老舗文房具ブランドのモンブラン、老舗筆記具メーカーのステッドラー、同じく老舗筆記具メーカーのラミーである。

アナログな文具メーカーも拡大するデジタルペン市場に商機を見出し、続々とデジタルペンを発売しており、ワコムと文具メーカーとの協業や文具メーカーへのOEM供給は今後も増加すると予想する。

アメリカの市場調査会社のKenneth Researchが2020年9月に発表したレポートによると、世界のデジタルペン市場は2024年までに42.6億米ドル(約4,473億円)に達すると予測をしており、デジタル端末に手書きするためのツールとしてデジタルペン市場の拡大が期待される。


5G、AI

5Gの領域でワコムはNTTドコモと協業して2020年6月に法人顧客向けサービスの「Virtual Design Atelier(バーチャル デザイン アトリエ)」の提供を始めた。複数拠点にいるデザイナーがそれぞれVRゴーグルとVRコントローラーを用いて行った操作情報を、「ドコモ・オープン・イノベーション・クラウド」を介して交換し、その操作によってデザインされた3Dデータを、同じ1つのVR空間上で共有することで、リアルタイムでの3Dデザインの共同制作を可能にし、作業工数の削減、生産性の向上が期待される。主なターゲットは、自動車などの製造業や、ゲーム/エンターテインメント業界である。

AIに関しては、デザインエンジニアリングを専門とするエスディーテック株式会社と協業で「教育向けAIインク」を2019年11月に開発。「教育向けAIインク」は、眼鏡型の視線検知デバイスを装着してペンタブレットを使用することで、学習中の視線のデータとペンの動きを取得し、このデータから生徒一人ひとりの学習の特性を明らかにし、個人に合わせた学習環境を提供するというものだ。


財務状況と経営指標


過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2018/32019/32020/3
営業キャッシュフロー6,7811,05413,058
投資キャッシュフロー▲767▲2,437▲1,960
財務キャッシュフロー▲974▲951▲5,825
現金及び現金同等物期末残高19,15716,76321,541

営業キャッシュフローは2020年3月期に大幅に増加しているが、大きな要因として棚卸資産の減少額約41億円という収入要因と税引前当期純利益の増加によるものが大きい。また、同期の財務キャッシュフローの大きな減少は長期、短期両方の借入金の返済による支出が大きい。


研究開発費、設備投資、減価償却費

(単位:百万円)2018/32019/32020/32021/3(E)
研究開発費(対売上高%)4,385(5.3%)4,345(4.8%)4,214(4.7%)5,400(6%)
設備投資(対売上高%)1,513(1.8%)2,380(2.6%)2,376(2.7%)2,100(2.3%)
減価償却費(対売上高%)2,421(2.9%)2,324(2.6%)2,280(2.5%)2,100(2.3%)

ワコムはテクノロジー企業であるために研究開発費に設備投資よりも多く支出してきたが、2021年3月期の研究開発費は前年比27%増、売上高の約6%を予定している。


中期経営計画

2018年に現在の代表取締役社長の井出氏が就任した際に中期経営計画(最終年度2022年3月期)を策定した。内容は以下の通りである。

既存市場(ペンタブレット/デジタルペンOEM供給)のリーダーシップを保持しつつ、デジタルペンとインクの新規市場を開拓する。また、新規市場として注力するのは、教育分野、デジタル文具市場。新製品として注力するのはAIとの連携による文脈と軌跡の把握・追跡。

2022年3月期に営業利益率10%、売上高1,000億円、ROE15~20%。売上高販管費率を過去10年間で最低レベルまで抑制する一方、研究開発へは積極投資の予定。

2021年3月期第一四半期まで順調に中期経営計画に沿って売上増、プロダクトミックスの改善などにより利益を伸ばしてきており、2022年3月期の経営目標数値は十分達成可能であると考える。


主な経営指標

2018/32019/32020/3
自己資本比率44.5%49.3%54.2%
配当性向62.2%24.6%117.7%
営業利益率4.28%4.64%6.28%
総資産回転率1.6回1.7回1.7回
EBITDA(百万円)5,9486,4758,187
ROA4.6%7.5%7.7%
ROE10.4%15.1%14.1%
ROIC4.8%10.4%12.8%

過去3年間営業利益率は4.28%から6.28%へと2pptも改善した。EBITDAは2019年3月期から2020年3月期にかけて26%も改善した。ROICは3年間で8pptも改善した。


為替感応度

ワコムは海外売上比率が80%以上と高い為にリスク要因は為替であるが、2021年3月期に関しては為替の想定レートを
1USドル=108.0円
1ユーロ=121.0円
1中国元=15.5円
としている。

為替感応度は1円の円高でUSドルでは5億7,000万円の減収、営業利益はフラット、 ユーロでは1億円の減収、6,000万円の営業利益減を予想している。また、対中国元では 0.1円の円高で6,000万円の減収、4,000万円の営業利益減を予想している。


投資判断

クリエイティブ・タブレットの世界的リーダー、サムスンなどへのデジタルペンのOEM供給という位置付けから世界的に高成長が期待される教育市場のデジタル化はワコムにとり新たな成長ステージへ押し上げてくれる機会だと予想する。

また、文具メーカーのデジタル文具への参入によりワコムのデジタルペンのテクノロジー の需要は更に高まるものと思われる。

また、5G、AIなどの次世代の領域でもサービスや製品をローンチしており市場、 事業ポートフォリオ両方の拡大を図っているため中長期での利益成長が期待される。

株価バリュエーションは予想PERが27.08倍、PBRが3.85倍と比較的割安である。広い 意味でDX銘柄であるが他のDX銘柄に比べ割安に放置されており、見直し買いが入る可能性も高い。また、日本国内に関しては学校教育のデジタル化は既に国家予算として確保されている事でありリスクは低いと考える。


プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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