執筆:西村 麻美


 


 

基本情報

 

企業概要

2013年設立。東京都港区に本拠地を置く国内首位フリマアプリ「メルカリ」運営企業。連結子会社にスマホ決済会社「メルペイ」、米国に「Mercari Inc.」。他に連結子会社3社。2018年6月東証マザーズ上場。

 

株式関連情報

株価4,760円(2020/9/15)
発行済株式数156,150,364株(うち自己株式2株)
上場市場東証マザーズ
時価総額7,431億円

 

従業員数

1,792名 (2020年6月末時点)

 

財務データ

 2016/62017/62018/62019/62020/6
売上高(百万円)12,25622,07133,42451,68376,275
営業利益(百万円)▲3,286▲2,775▲4,400▲12,149▲19,308
当期利益(億円)▲4,207▲4,207▲7,041▲13,764▲22,772
EPS(円)▲36.7▲60.90▲60.61▲94.98▲147.86
純資産(百万円)8,3954,41654,42250,93635,368
BPS(円)▲35.49▲70.15402.12337.88222.78

 

事業の概要

 

メルカリのセグメント構成

メルカリのセグメント構成は①国内メルカリ事業、②メルペイ事業、③米国メルカリ事業に分かれる。

メルカリ事業はフリマアプリ「メルカリ」の手数料が収益源。手数料率は10%。メルペイ事業に関してはメルカリの収益金も使えるスマホ決済である。原則として決済毎の手数料2.6%が収益源であるが、メルペイ事業は2019年2月にスタートしたばかりのため、キャンペーンをしており、期間限定で手数料が実質無料になっている。

決算短信上では全ての事業がマーケットプレイス関連事業のため、セグメント別売上高、利益を開示していない。その変わりに事業ごとのKPIを開示している。

国内メルカリ事業は単体で利益も出ており、安定成長している段階であるが、メルペイ事業、米国メルカリ事業に関しては投資段階である。

 

メルカリJP

メルカリJP単体では2018年6月期から単体では黒字になっている。以下がメルカリJPのKPIである。

 2018/62019/62020/6
GMV(億円)3,4684,9026,259
売上(億円)334462587
調整後営業損益(億円)7494185
MAU(100万人)10.5713.5717.45
テイクレート9.63%9.38%9.38%
MAUあたりのGMV/月(円)2734.23010.32989.0
MAUあたりの売上/月(円)263.3283.7280.3
MAUあたりの営業利益/月(円)58.357.788.3

テイクレートは2018年6月期が一番高く、2019年6月期に入り低下したが、2020年6月期も変わらない。MAUあたりのGMV/月、MAUあたりの売上/月は2020年6月期に若干悪化しているが、MAUあたりの営業利益/月は55.7円から88.3円と大きく改善している。

 

2020年6月期決算

2020年6月期通期連結決算の結果は、売上高が前年比47.6%増の762億円、営業損益が前年の営業損失から71億円減の▲193億円となった。

メルカリJPのGMVは前年比28%増の6,259億円、調整後営業利益率(メルペイとの内部取引を控除)が前年比11ppts改善の32%となった。メルペイの利用者数は700万人超、加盟店数は161万か所となった。メルカリUSのGMVは前年比88%増の681million USD(約721億円)、MAUは420万人を超えた。

国内メルカリ事業は安定的に成長し、米国メルカリ事業は目標としていた月間GMVの100million USD(約106億円)を第4四半期において達成することができた。しかし中長期的な成長のための広告宣伝費や人件費の増加等に伴い営業損失、当期損失は拡大した。

 

メルカリJPの出品強化策

2020年6月期はメルカリJPは出品の強化策として過去に購入したものを簡単に出品する事ができる「持ち物リスト」、カタログギフトの出品、出品者向けポイント付与のプロモーション等をやった。

またオフラインではメルカリ教室(一部のドコモショップでやっていたが、COVID-19により中止)、新宿と武蔵小杉の「メルカリステーション」で商品撮影や梱包を体験できる場所が設けられた。また、ドコモとの業務提携によりメルカリで売れた商品をドコモショップ内で梱包・発送できる「つつメルスポット」のドコモショップ内設置などの策が取られた。

 

メルペイのユーザー獲得策

メルペイは2019年のサービスのローンチ以来NTTドコモが展開する電子決済サービスのiDと提携し、iDの加盟店でメルペイが利用できるなどのサービスを提供してきた。

また、同年からコード払い、後払い、ネット決済に対応してきた。2019末には全国244の信用金庫との口座連携を開始し、2020年1月にはOrigami Payを買収した。

iDとの提携に加えて、メルペイは総務省のマイナポイント事業にも参加している。マイナンバーカードは、公的な身分証明書としての役割や、行政手続きのオンライン申請の機能などの他に2021年から健康保険証としての機能など利便性が高まって行く予定だが、メルペイでマイナポイントを申し込めば、支払額の25%相当分のメルカリポイントが上限5,000ポイントとして付与される。

マイナポイントに連動したメルペイ独自のキャンペーンも実施しており、メルペイでマイナポイントを申し込むと最大6,000ポイントの付与などのキャンペーンも行っており、メルペイはユーザー獲得のために施策を講じている。

メルペイに関しては、2021年6月期以降に取引データの蓄積に伴う、個人及び企業への付加価値提供と定額払い(分割払い)のサービスのローンチ予定である。

 

メルカリUSのブランディング、機能強化、配送

米国メルカリ事業ではブランドマーケティング強化の施策を取ってきたおかげで認知度が高まってきている。メルカリUSの調査では(調査対象: 18歳から54歳までのスマートフォンユーザー約 1,000人。調査期間 /内容:2019年1月及び2020年2月 The RealReal, Mercari, Poshmark, LetGoを含む11社を対象に、オンライン上で中古品を売買できるマーケットプレイスを提供する企業としての認知度の調査、複数回答可)メルカリの認知度が1.8倍に上昇

新たな配送オプションとして即日配送や価格提案機能、ブランド商品の本物保証の機能、数日かかっていた売上金の引き出しが数分で可能になるInstant Payなどの機能も加わった。

これら施策以外に米国メルカリは2018年に米配送大手のUPSと提携をした。UPS Storeは全米各地にあり、出品者が取引成立後にQRコードを印刷し、売れた商品と一緒に実店舗「The UPS Store」に持ち込むと、店側が梱包や配送を行うサービス「Mercari Pack & Ship」で配送のハードルを下げた。

2020年6月には配送大手の米Postmatesと提携し、配達員が出品者の自宅玄関で商品をピックアップし、購入者に即日配送するサービス「Mercari Now」をサンフランシスコで試験的に始めている。

これら施策の結果、目標の月間GMV 100Mを達成の他にMAUも420万人を突破した。

 

C-to-CのEC市場

メルカリの中長期的な成長を考える上で日本国内のリユース市場の成長を考える必要がある。リサイクル通信(株式会社リフォーム産業新聞社)の調査によると、リユース市場は2020年に2兆6,000億円、2021年に2兆8,000億円、2022年に3兆円規模に拡大すると予想している。

このうちのB-to-C市場、C-to-C市場の内訳であるが、リサイクル通信によると2021年にはC-to-C市場がB-to-C市場を上回ると予想している。仮に55%がC-to-C市場と考えて2021年の市場規模は1兆5,400億円。

C-to-C市場はネットオークション市場とフリマアプリ市場からなる。ネットオークション市場の主要プレイヤーはヤフオクであるが、ヤフオクはC-to-Cのみでなく、B-to-Cのいわゆる業者も交じっているので、純粋にC-to-C部分のみのGMVを抽出する事は難しいが、ヤフオクの2020年3月期のGMVは8,014億円であった。

おそらくヤフオクの出品者のうちおそらく最低でも10%はB-to-Cの業者であると思われ、C-to-C部分のGMVは7,212億円位かと推測する。2020年6月期のメルカリのGMVは6,259億円であった。

2020年4月の日本トレンドリサーチの調査によると、ヤフオクとメルカリの満足度評価はメルカリが7.263点、ヤフオクが7.124点であった。メルカリはユーザーにとって便利な機能を随時追加しており、数年以内にメルカリのGMVがヤフオクのGMVを上回るのではないかと予測する。

 

投資判断

メルカリの投資評価をする上で成長率の高いC-to-Cのリユース市場の圧倒的な覇者である事がまず基本である。米国メルカリ事業についてはまだ赤字であるものの、様々な施策の効果が出ているため今後も成長が期待される。

メルペイについては今後も官民両方で提携を増やし、ユーザー数は増え続けるものとみられる。メルペイは昨年にサービスのローンチをしたばかりなので、ユーザー数拡大のフェーズである。

株価バリュエーションであるが、まだ赤字のためPER、EV/EBITDAなどのバリュエーションの数値はないが、PBRは21.19倍である。

高成長が期待されるC-to-Cのリユース市場での圧倒的覇者として期待先行ではあるが、確実な利益成長が期待される。

 

プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


 

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