執筆:西村 麻美

株価
(2020/8/12)
時価総額 自己資本比率 ROE ROIC
6,192円 12.38兆円 15.9% N /A N /A
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR 配当利回り EV / EBITDA
N /A N /A 1.85倍 N /A 4.52倍

ソフトバンクグループ株式会社2021年3月期 第1四半期決算短信はこちら


2021年3月期第1四半期 決算分析

■2021年3月期第1四半期決算
売上高1兆4,501億円(前年比2.0%減⤵
営業利益8,330億円(同50.9%減⤵
四半期純利益1兆2,557億円(同11.9%増⤴

創業以来の赤字を記録した前期より回復し、四半期純利益は1兆2,557億円だった。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)など投資事業が好転した事による業績回復だった。

SVFの投資利益(純額)は2,966億円となり前四半期から1.4兆円改善した。投資の売却による実現益(純額)1,114 億円、上場投資先4銘柄の一部株式などを売却した。第1四半期末に保有する投資の未実現評価益(純額)は2,581億円を計上した。内訳は株式市場の復調により上場投資先で 1,494 億円、未上場投資先でも公正価値上昇により1,087 億円を計上した。

持株会社投資事業からの投資利益 は6,505億円だった。このうちTモバイル株式売却関連利益 4,219 億円。前年同期にはアリババ株式先渡売買契約決済益 1.2 兆円を計上した。

ソフトバンク事業に関しては売上は微増、セグメント利益は前年同期比0.9%減の2,592億円だった。子会社のZホールディングス傘下のZOZOのECの好調とコロナによるテレワーク需要で法人向けクラウド・サービスやセキュリティソリューションの売上が好調だったものの、コンシューマー向け事業の減益や投資利益の減少などのマイナス要因を補いきれなかった

SBGは第一四半期に計4.3兆円の資金化を実行した。Tモバイル株式の一部売却および同株式を活用した借入れ、先渡売買契約によるアリババ株式の一部資金化、通信子会社のソフトバンク株式の一部売却により、2020年8月3日までに 4.3 兆円の資産を売却した。内訳はアリババ株を147億ドル(約1.58兆円)売却、Tモバイル株を224億ドル(2.41兆円)売却、SBKK株を3,102億円売却した。

2020 年5月から7月にかけて合計2兆円の自己株式取得を決定し、このうち2020年6月末までに 1,017 億円、その後8月3日までに 3,983 億円の自己株式を取得した。

負債を計1.3兆円返済した。内訳はAlibaba株式を活用したマージンローン94億ドル (約1兆円)を期限前に返済、社債1,000億円を満期償還、国内無担保社債1,676億円(買入額面総額)の買入を完了。

税引前利益は前年同期比 8,620 億円減少し、8,330億円だった。内訳は財務費用に781億円計上し、デリバティブ関連損失(アリババ株式の先渡売買契約に関するデリバティブ関連損失など)が1,763億円、ビジョン・ファンドなど外部投資家持分の減少額が1,476億円だった。


2021年3月期予想

2021年3月期通期の業績予想を会社側は発表していない。

通信子会社のSBKKの通期業績予想は売上4兆9,000万円(前年比0.8%増)、営業利益9,200億円(同0.9%増)、当期利益4,850億円(同2.5%増)と5月に発表した業績予想からは変わっていない。Zホールディングスも通期業績予想を発表していない。

依然不安要因はSVFである。第1四半期で投資事業は好転したものの、SVFは売却分を除くと依然として含み損を抱えている。SVF1の開始した2017年から2020年6月末までで、累計投資成果は20億ドル(約2,154億円)だった。SVF1の投資先で企業価値が増加している会社数は29社、企業価値が減少している会社数は48社だった。

SVFの2020年6月末時点での説明資料によると、不動産セクターの投資先(We Workとは明記していない)は投資コストが99億ドル、6月末時点での公正価値が46億ドルであり、含み損は53億ドル(約5,710億円)。この他にSBGによるWe Workの30億ドル相当の株式買い取り計画の撤回を受けた訴訟は継続している。

SVFの他の投資先セクターで公正価値が投資コストを下回る含み損を抱える状態なのは交通、物流セクターの投資先(Uber Technologiesとは明記していない)で、投資コストが338億ドル、6月末時点での公正価値が306億ドルであり、含み損は32億ドル(約3,447億円)。

Uber Technologiesの先日発表された2Qの決算によると四半期損失が18億ドル(約1,940億円)だった。

また、同じくSVFの投資先企業の北京字節跳動科技(バイトダンス)は動画サイトTikTokを運営しているが、大統領令で米国国内のアプリ使用禁止が命じられた。

SVF1のパフォーマンスが悪いため、外部投資家のお金が集まるとは考えづらく、2号ファンドの立ち上げは難しい状況にあると思われる。ファンド事業に関しては米中関係の悪化、ウィズコロナ時代になり戦略の変更が必要になるかもしれない。

2016年に3.3兆円という巨額で買収した英半導体大手のアームに関してはSBGは高値で売却先を探しており、米半導体メーカーのエヌビディアが興味を持っていると報じられているが、巨額投資の回収ができれば25%出資するファンド事業の損益改善に貢献するだろう。


アナリストによる投資スタンス

業績については不透明要素が残るものの、3月に公表した4.5兆円の資産売却の計画のうちにすでに4.3兆円分は資金化しており、財務リスクが低減した事も好感され株価は上昇基調である。株価バリュエーションはPBRが1.85倍、EV/EBITDAは4.52倍と割安な印象を受ける。


過去の任天堂の決算ハイライト

・2020年3月期


プロフィール

マーケットアナリスト西村麻実 / Market analyst Mami Nishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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