執筆:西村 麻美

2021年になってからも相変わらず半導体銘柄が好調である。世界最大の半導体メモリーメーカーのサムスンや半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が2021年の設備投資計画を2020年より大幅に増額すると発表してから日本の半導体関連企業の株価がことごとく値を上げている。今回は半導体の中でもパワー半導体について取り上げたいと思う。



パワー半導体とは

通常、半導体銘柄というとマイコン(CPU)やメモリなどのLSIがよく知られているが、これらは演算や記憶などの働きをする半導体である。一方パワー半導体とは、交流を直流にする、電圧を5Vや3Vに降圧するなどし、モーターを駆動したり、バッテリーの充電をしたり、あるいはマイコンやLSIを動作させるなど、電源(電力)の制御や供給を行う半導体をいう。

パワー半導体は様々なものに使われるが、イメージとしては下図のような形である。

(出典:サンケン電気HPより)

今後アナログの物もインターネットに繋がるIoTが普及するに連れて半導体の需要は高まるが、パワー半導体の需要も高まると予想される。

具体的にどのような物にパワー半導体が使われるかだが、白物家電、ロボット、鉄道などの電力制御から、太陽光や風力発電の直流・交流変換まで幅広く使われる。また、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)やハイブリッド自動車にもパワー半導体は必需品である。


パワー半導体市場の状況

昨年2020年は全世界的なコロナの蔓延で自動車の生産が落ち込んだが、その後に自動車生産は急回復をした。

しかし、自動車生産に必要な車搭載の半導体であるパワー半導体が不足している状況が2020年秋頃から表面化し、需給逼迫は2021年になっても続いている。

需給逼迫の背景にはパワー半導体大手のスイスのSTマイクロエレクトロニクスや蘭NXPセミコンダクターズなどの供給不足があると言われている。上記2社での供給不足の理由として車載用に充てていた供給能力を再生エネルギー市場向けへ変えたという事情がある。

欧州と中国は再生エネルギー向けのパワー半導体需要がすごく高いためにそうせざるを得なかった。パワー半導体の需給ひっ迫状況下で日本のパワー半導体を作っているメーカーにとっては勝機が巡ってきたと言える状況であろう。


パワー半導体の市場規模

矢野経済研究所は2020年7月にパワー半導体の世界市場の調査結果を発表し、2025年までの世界市場規模を予測した。以下、矢野経済研究所のレポートから引用。

矢野経済研究所によるとパワー半導体世界市場は2021年から一部の需要分野で回復基調となり、2025年には243億5,100万ドルまで拡大すると予測している。

(出典:矢野経済研究所HPより)

2019年におけるパワー半導体の世界市場規模(メーカ出荷金額ベース)は、前年比0.3%減となる186億1,600万ドルであった。2020年のパワー半導体世界市場は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、前年比9.0%減となる169億4,500万ドルに縮小したとみられる。

パワー半導体の需要分野は「情報通信」「民生」「産業」「自動車」の4分野に大きく分けられるが、最も大きく落ち込んだのが自動車向けパワー半導体である。2020年の自動車向けパワー半導体世界市場(メーカ出荷金額ベース)は前年比18.4%減の35億2,600万ドルまで落ち込んだとみられる。

一方、「情報通信」「民生」分野向けパワー半導体の減少幅は「産業」「自動車」分野よりは小さく、データセンターや5G基地局向けの設備投資も旺盛であることから、パワー半導体の需要についても堅調に推移した。

2019年のSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体の世界市場規模(メーカ出荷金額ベース)は前年比23.5%増の5億4,600万ドルであった。SiCパワー半導体は、データセンター向けサーバーや太陽光発電用PCS(パワーコンディショナー)、産業機器用電源、EV用充電ステーションやオンボードチャージャー(以下、OBC)等で使われており、SiC-SBDだけでなくSiC-MOSFETの採用も進んでいる。

2018年から大きく伸長しているのが、自動車向けSiCパワー半導体である。これまではコスト面からEV用OBCに採用が限定されていたが、一部のEVでモータ駆動用インバータでの採用が始まり、2019年の市場規模は前年比2倍以上に伸長した。

今後、高容量バッテリー、800V給電システムを採用するEV高級車へのインバータでの搭載が見込まれるために、2025年のSiCパワー半導体の世界市場規模はEV用インバータ向けが市場をけん引し、18億2,000万ドルに達すると予測した。

2021年は一部の需要分野から回復基調に転じ、2022年には2019年の市場規模を超える見通しである。2019年から2025年までの年平均成長率(CAGR)は4.6%となり、2025年のパワー半導体世界市場規模(メーカ出荷金額ベース)は243億5,100万ドルに成長を予測する。


パワー半導体銘柄

パワー半導体はEV(電気自動車)に使用される電子部品であるため、EV関連銘柄としてこれから注目を浴びる可能性も高いと考えている。以下に主なパワー半導体関連銘柄をあげる。


ローム(6963)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
11,310円 1.16兆円 58.55倍 1.53倍 13.2倍

大手電子部品メーカー。LSIでは首位

パワー半導体市場に後発として参入しながら、本格的な拡大が見込まれるSiC(炭化ケイ素)パワー半導体市場において、2012年には世界初のフルSiCパワーモジュールを量産開始。SiC市場では2025年までに世界シェア30%を得るという目標のもと、車載と産機の2つを注力市場として全方位的に展開している。

中国の新エネルギー自動車向け駆動分野の先進企業Leadrive TechnologyとのSiC搭載車載インバーター開発用の共同研究所開設や、独コンチネンタルグループであるVitesco Technologiesと開発パートナーシップを結んでいる。


三菱電機(6503)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,622円 3.4兆円 29.0倍 1.42倍 7.9倍

総合電機大手。FA、自動車機器や昇降機が収益柱。パワー半導体も成長事業として重視しており、パワー半導体の新たな製造拠点を広島県福山市に開設し、2021年11月に稼働予定。


富士電機(6504)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
4,030円 6,016億円 20.93倍 1.49倍 9.6倍

重電大手。パワーエレクトロニクス機器や自販機、パワー半導体に強み。パワー半導体の2023年度の売上高目標を1,750億円(2018年度比57%増)とするなど、主力のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)を中心に拡大する方針。


サンケン電気(6707)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
5,050円 1,267億円 N/A(今期赤字予定) 2.77倍 N/A

独立系パワー半導体大手。半導体技術を核に応用製品展開。自動車と白物家電向けを重点的に強化している。 2021年3月期は自動車業界向け売上減で赤字予定であるが、来期は業績回復が期待される。


三社電機製作所(6882)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
910円 136億円 45.66倍 0.7倍 5.3倍

電源機器と半導体の生産が柱。金属表面処理用電源で国内首位。半導体はパワー系でニッチに特化している。2015年にパナソニックとSiCパワーモジュールを共同発表。また、トヨタとパナソニックとともに車載電池の開発も手掛けている。


ディスコ(6146)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
37,500円 1.3兆円 N/A 5.85倍 N/A

半導体、電子部品向け切断・研削・研磨装置で世界首位

半導体ウエハーの切断・研削・研磨装置や消耗品のフル生産を2021年5月初旬まで続ける。コンデンサー向けの需要が旺盛なほか、自動車の電装化でパワー半導体やセンサー向けの需要も伸びている状況。


東芝(6502)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
2,949円 1.3兆円 N/A 1.43倍 N/A

総合電機大手。不正会計に続き米国原発事業の巨額損失で経営危機に。2018年東芝メモリ売却で再建を図った。

2019年度から2023年度の5年間でモーター制御などに使うパワー半導体の増産に約1,000億円の投資予定。2023年度の生産能力は2018年度末比で50%高まる予定。


芝浦メカトロニクス(6590)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
5,370円 275億円 12.3倍 1.2倍 4.8倍

FPDや半導体等の製造装置メーカー。東芝系。液晶関連強く同洗浄装置で世界首位。パワー半導体用スパッタリング装置も手掛けている。


ルネサスエレクトロニクス(6723)

株価(2021/1/18) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,282円 2.2兆円 N/A 3.5倍 N/A

大手半導体メーカー。三菱電機および日立製作所から分社化していたルネサス テクノロジと、NECから分社化していたNECエレクトロニクスの経営統合によって、2010年4月に設立。車載用マイコン世界首位級


プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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