執筆:西村 麻美

5G、AI、ビッグデータ、VR、IoT機器普及で技術革新の波が押し寄せている。高速化、大容量化、高集積化といった技術革新とともにLSI(大規模集積回路)や超LSIなどの半導体チップはどんどん小型化している。

半導体チップの進化とは、半導体回路パターンの微細化である。一般に、半導体回路パターンの形成には光リソグラフィ技術が用いられる。これは、フォトマスクと呼ばれるガラス基板に描画された回路パターンを、露光装置を介してシリコンウエハー上に転写する技術である。その線幅は20nm(ナノメートル、1nm=10億分の1m)が理論的な限界値とされ、より微細な回路パターンを形成するためには、次世代半導体製造プロセスが必要となる。それがEUV(極端紫外線)露光技術である。



EUV市場概要

EUV露光装置は1台200億円近くもするので、購入できる半導体メーカーは限られており、世界中で10nm未満のプロセス技術を使用してファブを運用できているのは、TSMC、Samsung Electronics、Intelのみである。

この3社のうちIntelは微細化競争から脱落し、2020年7月末の2Qの決算発表時に次世代7nmが1年以上遅延していて、プロセッサ生産の外部委託を検討していると発表した事から台湾のTSMCに委託したのではと推測された。Intelの脱落により半導体の微細化競争は事実上TSMCとSamsungの2社で争っている状況である。

EUV露光は線幅を細くしてチップ当たりの回路を増やす微細化を進めるために欠かせない技術である。露光工程の装置だけではなく、感光剤である「フォトレジスト」や、その塗布、露光後の不要物除去といった周りの工程にも影響を及ぼしている。フォトレジストは半導体製造工程の1つであるリソグラフィープロセスに用いられる材料であり、光に反応してその後のエッチング工程から表面を守る・保護する役割を担っている。半導体産業で重要な微細化を推し進めるうえで、露光装置と並ぶコア部材である。

EUV露光装置はオランダのASMLが独占している状態であるが、マスクブランクスやフォトレジスト分野では日系企業のポジションは高い。フォトレジスト市場はJSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムの国内5社が主要供給メーカーと位置づけられており、この5社で市場の9割を握っている。電子デバイス産業新聞によるとフォトレジスト市場は2019年に1,521億円だったと言われている。

半導体製造装置メーカーに関しては、半導体および装置市場調査会社の米VLSIresearchによると、2019年の半導体製造装置メーカー売上高ランキング・トップ15のうち日本企業は8社がランキングに入っている。

(出典:VLSIresearch Inc.)

上記のランキングによると、3位に東京エレクトロン、6位にアドバンテスト、7位にSCREENホールディングス、9位に日立ハイテック、11位にニコン、12位にKOKUSAI ELECTRIC(未上場)、13位にダイフク、15位にキャノンが入っている。

世界の半導体市場は2030年には100兆円規模になると言われているが、日本企業はこのうちの半導体製造装置と半導体原材料の分野でこれからも大きく伸びていくのではと期待される。日本株で半導体関連に投資を考える場合は半導体装置メーカーと半導体原材料メーカーが考えられる。

以下に次世代半導体技術「EUV」関連の半導体装置メーカーと半導体原材料メーカーをあげる。


EUV関連の半導体装置メーカーと半導体原材料メーカー


レーザーテック(6920)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
10,570円 9,487億円 76.26倍 23.88倍 53.2倍

半導体マスク欠陥検査装置を中核とし、2019年9月、世界で初めて5Gのスマートフォン向けなど微細化の競争が激しい半導体の製造過程に必要不可欠となる回路焼き付けに使うマスクをEUV技術で検査する新型装置を完成させた。

2020年6月期決算で売上高(425億円)の半分弱がEUV関連だった。オランダの露光装置大手ASML(ASML)が、EUV(極端紫外線)マスクブランクスの欠陥検査装置のサプライヤーとして100%のマーケットシェアを持っていると言われてきたが、競合の米KLA(KLAC)欠陥検査装置開発も進んだようで、ASMLのマスクブランクスのサプライヤーとしてイベント資料にレーザーテックとKLAの2社が記載されていた事から、予想PERが2020年7月には103倍まで付けた後に株価は急落し、現在は70倍台後半になっている。


東京エレクトロン(8035)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
35,100円 5.4兆円 25.99倍 6.16倍 16.9倍

半導体製造装置(SPE)で世界第三位。コーダデベロッパー、エッチング装置、成膜装置など前工程に強み。EUV露光工程に使用するコーダデッベロパーでは市場シェア100%

SPEのアプリケーション別ではロジック/ファウンドリは先端世代、成熟世代ともに需要は2019年を超える高い水準。DRAMは前年と同水準。不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリ、HDDなど)は前年比50%増を予定している。FPD製造装置はモバイル向けOLED投資が回復し、前年比15%を超える成長を見込む。


アドバンテスト(6857)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
7,300円 1.4兆円 34.03倍 6.09倍 20.9倍

半導体検査装置大手。半導体製造装置世界ランキング6位。テストの技術力が最も試されるDRAMなどの高速デバイス、コンピューティングデバイス、通信用プロセッサの量産テスト市場で、支配的な市場ポジションを築いている。EUV露光装置によってより一層回路が複雑な半導体ができて量産されると、テスタ需要はより大きくなると推測される。


JSR (4185)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
2,908円 6,141億円 65.77倍 1.61倍 15.0倍

合成ゴム2強の一角、自動車タイヤ用が主。半導体レジスト、液晶配向膜等の電子材料が収益の柱。フォトリソグラフィ工程に用いるフォトレジストが世界トップ(27%)、シリコンウェハーを加工するCMP(化学機械研磨)工程に用いるCMPスラリー、CMPパッドも新たな収益源に成長しつつある。


東京応化工業(4186)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
6,640円 2,718億円 28.67倍 1.88倍 10.9倍

半導体製造工程で使われるフォトレジストで世界シェア第2位(24%)。半導体・ディスフォトレジストの他に、高純度化学薬品を中心とした製造材料、半導体用・ディスプレイ用製造装置などの各種プロセス機器、その他無機・有機化学薬品等の製造・販売を手掛ける。


信越化学工業(4063)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
16,945円 6.9兆円 24.89倍 2.58倍 12.2倍

塩化ビニル樹脂、半導体シリコンウエハで世界首位。半導体シリコンウェハのマーケットシェアは32%。営業利益ベースでの半導体シリコンの比率は約40%。フォトマスクの原料でガラス基板に遮光性薄膜を形成するフォトマスクブランクスで高いシェアを持つ。マスクブランクスは顧客企業(おそらくTSMC)からの要請を受けてEUV用も開発。フォトレジストは17%のマーケットシェアを持ち世界第3位。


住友化学(4005)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
385円 6,278億円 20.98倍 0.69倍 7.2倍

総合化学大手。石油化学はシンガポール、サウジでも合弁展開。医薬品、農薬、電子材料等が収益の柱。フッ化アルゴン(ArF)液浸用レジストでは世界トップシェアを持つ。フォトレジストでは世界第4位の14%のマーケットシェアを持つ。EUVなど最先端プロセス向け半導体フォトレジストの開発を強化。


富士フィルム(4901)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
5,730円 2.3兆円 18.32倍 1.14倍 8.7倍

写真、医療機器、医薬、液晶フィルム展開。富士写のマイクロフォトレジストは45nm、32nmの微細な回路パターンを製造するため、世界の半導体メーカーで使用されている。新規に2020年秋からEUV向けフォトレジストの試作を始め、2021年から量産を始める予定。


東洋合成工業(4970)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
10,620円 823億円 66.90倍 7.41倍 24.2倍

半導体や液晶のフォトレジスト用感光性材料を製造。化成品は香料材料、高純度溶剤なども手掛ける。EUV用フォトレジスト向け感光性材料で高実績を誇る。また、ArF向け感光性材料も好調に推移している。


大阪有機化学工業(4187)

株価
(2020/11/27)
時価総額 予想PER PBR EB/EBITDA
2,851円 619億円 20.11倍 1.88倍 9.4倍

独立系化学メーカー。アクリル酸エステルに強く多品種少量生産が得意。フォトレジスト向けのアクリル酸エステルで市場シェア6割以上を持つトップサプライヤーである。アクリル酸エステルは1世代前のArF向けでは主骨格として採用されている。

また、光配向材料が、有機ELフレキシブルディスプレイに用いられる薄型積層フィルムの原材料として採用され、量産・販売を開始した。この材料で製造されたフィルムは、厚みを従来の約50分の1程度にまで薄くでき、折り曲げによる光学特性の変化などを抑制することが可能。


プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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