執筆:西村 麻美

EV(電気自動車)の普及により日本株の投資テーマとして、次世代バッテリーとして全固体電池というワードが聞かれるようになりしばらく経つ。

全固体電池はEV搭載のみならず様々なIoT機器への搭載が期待されており、大手自動車会社をはじめとして、電池メーカー、電子部品会社など多くの企業が全固体電池の開発に取り組んでいる。全固体電池開発に至る政策的背景、全固体電池とはどういうものなのか、また上場企業各社の開発状況についてここでは取り上げてみたい。



政策的背景

気候変動問題や資源獲得競争問題より省エネルギーと再生エネルギーの導入が求められてきたが、経済成長の視点から蓄電池市場は成長市場として外貨獲得の為に戦略が策定された。2017年の閣議から国内企業による先端蓄電池の市場獲得規模として年間 5,000 億円を目指すと決定された。

また、翌2018年の閣議で2030 年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を 5 割から 7 割とすることを目指す。次世代電池をはじめとした基盤技術開発の抜本的強化等に向けた戦略を定め、官民一体でこれを進めると決定された事が背景としてある。


蓄電池市場の動向

蓄電池の世界市場規模は 2017 年が約 7.4 兆円、2018 年が約 8.5 兆円、2019 年が約 9.4 兆円(見込み)と堅調に成長している。今後、民生用、車載用、電力貯蔵用等の各用途でプラス成長が見込まれ、2025 年には約 15 兆円、2030 年には約 20 兆円の規模にまで成長すると予測されている。
(出典:国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)、先進・革新蓄電池材料評価技術開発2020年度方針より)

民生用のリチウムイオン電池(LIB)については、市場規模が数千億円であった 2000 年代初頭では、国内蓄電池メーカーの世界シェアは 90%以上を占めていた。しかし、国内モバイル機器メーカーの競争力低下、産業政策支援・大胆な設備投資による中韓蓄電池メーカーのコスト競争力の向上、為替相場での円高等を背景に徐々にシェアを下げ、10%程度に低下している。

次世代バッテリーの全固体電池は2001 年~2017 年における累積の特許出願件数は日本が最も多く(全体の約4割)、研究開発で他国をリードしているものの、他国は日本に追い付くための研究開発を進めており全固体電池については、産学官が連携・協調して研究開発に取り組むべき技術であると考えられている。


全固体電池の優位性

現在、EVに使われているEVで一般的に用いられているリチウムイオン電池は、正極にリチウム酸化物、負極に炭素材料などを使用。正極と負極の間には電解質として電解液が使われているために衝撃などによって発火・爆発を起こす安全面での問題がある。

一方全固体電池は固体でありながらイオンの動きを妨げない材料を電解質として利用することで安全性を高め、不燃性の材料を使えば発火・爆発する可能性はなくなり、固体材料で正負両電極の位置を固定して隔てればショートする可能性も低減する。

リチウム電池と比較して全固体電池はさらに大容量、さらに高出力、寿命が長い、継ぎ足し充電が可能、安全性、自由な形状などがあげられる。


各社の開発状況


村田製作所(6981)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
8,285円 5.3兆円 28.04倍 3.01倍 13.4倍

村田はソニーの電池事業を2017年に買収したが、主力商品の積層セラミックコンデンサや多層デバイスなどで培ったプロセス技術を使い、酸化物セラミックス系電解質を使用したことで、燃えない、熱に強い、小型であるという特性を有している。

ウェアラブル機器や小型IoT製品への導入が期待されており、2020年度中(2021年3月まで)に全個体電池の量産を開始すると発表している。ソニーから買収した電池事業は赤字続きだったために利益貢献するのには時間がかかるとみられるが、村田は2021年度中には黒字化する意向である。


トヨタ自動車(7203)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
7,300円 20.4兆円 14.37倍 0.97倍 13.2倍

トヨタ自動車は全固体電池の開発で他の日本企業よりはるかに進んでいると言える。

2019年に超小型EVのコムスに開発中の全固体電池を搭載し実験走行に成功した。トヨタは、現状のリチウムイオン電池のピュアEV(BEV)は、長距離および乗用車には適さないと考えており、全固体電池の実用化とEVシフトをセットにして考えている。長い間パナソニックと電池開発に取り組んで来たが、新たに2020年4月に共同出資会社プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)を設立し、車載用の角形リチウムイオン電池、全固体電池および次世代電池の開発に取り組んでいる。

また、トヨタは京都大学とも次世代電池の共同研究に取り組んでおり、フルオライド(フッ化物)を使用した全固体電池の試作に成功している。この全固体電池では電池をためる性能がリチウム電池の7倍まで高められる事を確認した。


マクセルホールディングス(6810)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,137円 562億円 N/A (今期赤字予想) 0.66倍 9.4倍

マクセルは長年にわたり、リチウムイオン電池やマイクロ電池の開発および製造を行ってきたが、硫化物系固体電解質を用いたコイン形全固体電池の仕様化の目途がたった事から生産設備の導入を2020年9月に発表し、同月からサンプル出荷を開始した。固体電解質の開発には三井金属工業(5706)との協業により高性能材料を使用している。


日本電気硝子(5214)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
2,192円 2,121億円 15.13倍 0.45倍 4.8倍

ガラス加工を得意とする日本電気硝子は2017年に正極材料に結晶化ガラス、電解質に酸化アルミニウム素材を用い、試作した全固体電池の駆動実験に成功したが、2020年6月には開発中の全固体ナトリウムイオン電池の電気抵抗を大幅に減らすことで、実用可能な水準の性能を確かめたと発表した。車載向けに応用できるとみており、2025年を目標に量産体制を整えて実用化を目指す。


TDK (6762)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
13,500円 1.7兆円 22.44倍 1.95倍 7.3倍

TDKは2017年、積層電子部品の製造などで蓄積したセラミック材料技術、積層技術、焼成技術などをベースとして、SMD(表面実装)タイプの全固体リチウムイオン二次電池を世界に先駆けて製品化

電源の小型化が要求されるウェアラブルデバイスやBluetoothビーコンをはじめ、環境発電技術と組み合わせることで、外部の電源に依存することなく、バッテリ交換も不要なIoTデバイスを実現する現時点で世界最小、充放電可能、しかもアセンブリが容易なソリッドステートの積層セラミック固体電池


太陽誘電(6976)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
4,225円 5,303億円 24.13倍 2.41倍 8.6倍

太陽誘電は主力の積層セラミックコンデンサー(MLCC)で培った材料技術やプロセス技術を応用して全固体リチウムイオン二次電池を開発した。独自の酸化物系固体電解質セラミックスを使い、積層プロセスを応用することで、固体電解質の薄層化や多積層化を実現。小型化・大容量化を両立した。

スマートウオッチなどウエアラブル端末などでの使用を想定しており、2020年度中にサンプル出荷を始め、21年度中の量産を目指す。


FDK (6955)

株価
(2020/11/20)
時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,089円 375億円 25.03倍 4.98倍 13.4倍

2018年12月にSMD対応小型全固体電池を開発、さらに2019年5月には、従来の内部構成と形成プロセスを改良することにより、従来比2.5倍の体積エネルギー密度(65Wh/L)の高容量化を実現し、サンプル出荷を行なってきた。2020年度第3四半期中の量産開始をし、2020年度中に月30万個規模の生産体制を整備し、2022年度には月200万個規模とする計画


プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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