執筆:西村 麻美

株価
(2020/5/18)
時価総額 自己資本比率 ROE ROIC
6,685円 8.43兆円 17.9% 14.11% 11.93%
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR 配当利回り EV / EBITDA
14.1倍 N / A 2.04倍 N / A 7.8倍

ソニー株式会社 2020年3月期 決算短信はこちら


2020年3月期 決算分析

■2020年3月期の決算
売上高8兆2,598億円(前年比4.7%減⤵
営業利益8,454億円(前年比5.5%減⤵
当期利益5,821億円(前年比36.5%減⤵

減収減益だった。エレクトロニクス・プロダクト&ソリューション及びゲーム&ネットワークサービスで大幅減収があり、一方イメージング&センシング・ソリューションでは大幅増収だった。

営業利益レベルでは前年度に連結子会社化したEMIの再評価益を2019年3月期に1,169億円計上していたため、この一時的な要因を除くと営業利益は実質前年度比微増であった。

当期利益レベルでは前年度Spotify社株式売却益及び評価益を2019年3月期に1,178億円計上した。

また、繰延税金資産に対する評価性引当金の一部取り崩しを行い、1,542億円を2019年3月期に計上した。これら一時的要因を除くと実質当期利益は前年度比微減であった。

事業セグメント別に見ると、ゲーム&ネットワークサービス分野ではプレイステーションプラスの増収はあったもののプレイステーション4のハードウェアの減収、ゲームソフトウェアの減収、また為替の悪影響があり、営業利益レベルで727億円の大幅減益

映画分野では全世界で劇場興行収入の増加やテレビ番組作品のライセンス収入の増加があり、営業利益レベルで136億円の大幅増益

金融分野ではソニー生命の増収があったものの、株式相場の下落や金利の低下などにともなう責任準備金繰入額の増加及び資産運用損益の悪化や、ソニー銀行における有価証券評価損益の悪化により営業利益レベルでは319億円の減益だった。


2021年3月期 業績予測

2021年3月期の業績予想についてはソニーの全ての事業セグメントが悪影響を受けると予想しているものの業績予想は未定であり、2020年8月初旬に行う予定の第一四半期業績説明会にて連結業績見通しを発表する予定。

また、2020年5月19日にソニーは金融事業を手掛ける上場子会社のソニーフィナンシャルホールディングスを完全子会社化すると発表。

ソニーは現行ソニーフィナンシャルホールディングスの発行済み株式の65%を保有しているが、約4,000億円を投じTOB(株式公開買い付け)を実施し、残り35%の株式の取得をし、ソニーフィナンシャルは上場廃止となる。

ソニーの持つAIなどの技術と銀行や生損保を傘下に持つソニーフィナンシャルの持つ金融ノウハウを融合し、フィンテック領域を強化する意向。タイミング的にもソニーフィナンシャルホールディングスの株価が新型コロナウィルスの影響により割安になっている事もあり完全子会社化に踏み切った。


アナリストによる投資スタンス

決算の見た目で気をつけておくべきポイントはあるものの、見通しは強気に見ている。

新型コロナウイルスの影響により自宅で過ごす時間が増えている状況は、ソニーの営業利益のうち30%前後を占めるゲーム事業にとって総論ポジティブであると考えている。 プレイステーション4などのハードウェアの売上だけでなく、ソフト面の売上貢献が効きやすいと考える。

ただし、今期プレイステーション5の発売が控えている中、順調な需要が見込まれると予想する一方で、決算という意味では開発費の償却負担が出てくることで、一時的に費用が大きくなることでの決算の見た目の影響には注意が必要であろう。

また年末に向けた5Gの普及とともに、スマートフォンカメラの高解像度のイメージセンサー需要がさらに増すと想定され、CMOSイメージセンサーでグローバルシェアNo.1のソニーのCMOS事業の成長も想定しており、新型コロナウイルスの動向とは関係のない成長事業を抱えていることも強気に見ている理由である。

ソニーフィナンシャルの子会社化についても、ソニーのこの動きはポジティブであると考える。エレクトロニクス事業や映画事業などの浮き沈みの大きい事業を安定的な金融事業が補う事ができ、ソニーのビジネスが段々とゲームや音楽などの継続課金型ビジネス(サブスクリプションサービス)にシフトしている中で、金融決済機能を自前で持つメリットとシナジーは大きいと感じる。

今回のTOBで親会社ソニーの純利益には、ソニーフィナンシャルホールディングスの当期利益の35%分が今後上乗せされていく事になる。ソニーフィナンシャルホールディングスの当期利益は2020年3月期で744億円、2019年3月期で620億円であった。今期(2021年3月期)の会社側業績予想はないが、仮に2020年3月期の利益額で計算すると、744億円×0.35=260.4億円が完全子会社化によりソニーの当期利益に上乗せされる事になる。これはソニーの20年3月期の純利益が約5%程度利益が増える計算となる。

買収に際して4,000億円とのことだが、PERベースで15倍程度、今後の成長余地やソニーフィナンシャルのEV(エンベディッド・バリュー)含めて、割高感はない。


プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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